吸血鬼 吾作
矢を右横腹に撃たれた吾作は、自分の持てる力を使って庄屋さんの屋敷から離れ、自分の村の方向へ走った。そして少し横道にそれ、田んぼのあぜ道に身を潜めた。一気に走ってきたし、この日はまだネズミを一匹も捕らえてなかったので、意識が少しもうろうとなってきた。
自分の右横腹を見ると、見事に矢が自分の中心ぐらいまで刺さっており、これを抜くのも大変そうだった。しかし不思議な事に痛みはなかった。ただ、意識を失いそうな感覚があったので、このままではヤバい!そう思った。そこでとりあえずネズミを捕って・・・と、思ったが、体が言う事を聞かなくなってきた。そして意識も更にもうろうとなってきた。吾作はその場で横になってしまった。このままでは本当にヤバい・・・しかし体に力が入らないからネズミを捕る事も出来ない。どうしよう・・・このままだと、動けないまま朝になって、自分は燃えてしまう・・・お願いだから・・・ネズミ・・・来てくれ〜〜・・・もう、ダメだ・・・。このままでは意識を失う・・・どうかネズミ、来てくれ〜!と、心の底から吾作は祈った。しかしそんな願いが都合よく届いく訳がない。あ、もうダメか・・・と、吾作が諦めかけた時、目の前の草陰からネズミがチョロチョロっと顔を出した。吾作は、
(え?ホントに?)
と、思った。吾作はすでに力の入らない腕を伸ばし、そのネズミを捕まえようとした。しかしもういつもの瞬発力は出ないので捕まえれない。やはりもうダメだ〜・・・、何とかあのネズミを捕まえたいんだけど〜・・・と、また心の底から念じてみた。すると今度はそのネズミが自分から吾作の伸ばした手の中に入って動かなくなった。
(え?)
と、思った吾作はその手の中のネズミを見ると、じっとして動く気配が全くない。吾作はそのネズミの入った手を自分に引き戻すと、
「ご、ごめんなさいっっ。」
と、そのネズミに謝ってかぶりつき、血を吸った。そのネズミはすぐに水分がなくなって干からびた。これで少しは生き延びれたと、吾作は思ったが、まだ傷を癒すには血が足りていなかった。
(せめてもう一匹ネズミの血をもらったら、矢を抜いて治るかもしれん。でもそんなまたネズミが来るなんてないよな〜・・・)
と、吾作はまだ横になりながら手を伸ばしていた。すると、まさかの二匹目が現れて、自分の手のひらの中に収まってきた。
「え?うそお〜!」
さすがに驚いた吾作は、つい声に出してしまったが、その手に収まったネズミをまた、ごめんなさい。と、言いながら血を吸い尽くした。さすがに少し元気が出てきた吾作は、何で手の中に来たのか?と、いう疑問を考えた。まさかな〜・・・と、思いつつ吾作は、
(ごめんなさい。ネズミさん。わしの手のひらに来て〜!)
と、心の底から強く念じてみた。するとまたしばらくしてネズミが手の中に収まってじっと動かなくなった。吾作はそのネズミの血を飲み干しすと、これはもうそうだわ!と、確信をして、さらにネズミに来てもらうよう心に念じてみた。すると見事に吾作の周りはネズミだらけになった。吾作は自分の能力に驚きすぎて笑いが込み上げてきたが、実際に笑うまでの体力は戻っていなかった。このままネズミ達の血を頂いてもいいのだが、とりあえず村に帰る事を考えた。そこでネズミ達に、
「ごめん。わしを運んでってくれるかん?」
と、お願いをすると、見事にネズミ達は横になっている吾作を担ぎ上げ、田んぼのあぜ道から出て自分の村へ帰る道へ出て、そのまま一直線に村へ向かった。