吸血鬼 吾作 十四

吸血鬼 吾作

 吾作が化け物になってすでに数十年の月日が流れていた。庄屋さんや和尚さんなど、なじみの人達はすでに亡くなって、すっかり村は代替わりをしていた。村自体もこのすう十年で飢饉があったり、水害にあったりして、そのつど、吾作は何とか村の人達が助かるようにと、イナゴを大量に集めて食料にしたりもしたが、救えない命もいくつもあった。

 それでも吾作は生きていた。姿形、何一つ変わらないまま、吾作は元気な青年のままだった。しかしおサエは年老いた。気がつけば肌はカサカサになり、髪も白髪になり、顔もしわが増えた。おサエは自分が歳を重ねるのに吾作が老いない事にかなりの最初の数年は気がつかなかったが、自分の手のしわや、水に写った顔を見ると、

(自分は年老いていくが、吾作は変わらない)

と、心の中で思う様になっていった。しかしそれを声には出さなかった。そして畑仕事をするのも辛くなったので他の者に畑を譲り、あまり家から出なくなった頃、吾作との別れが近づいている事の恐怖が襲ってくるようになっていった。

(もう私は婆さんだ。吾作は何も言わんけど、こんな私のそばにおって不満はないんだろうか?それに私はそんなに長くない。その時吾作は、どうするんだろうか?)

と、思うまでになった。しかしそれからしばらくして、おサエは立つ事も出来なくなってしまった。

 おサエが寝たきり生活になり、吾作は昼も夜も関係なく看病をした。しかしさすがに日中は外に出れなかったので、近所の村人に看病を交代してもらったりもした。しかしおサエはどんどん弱っていき、おサエにもお迎えが来る日がやってきた。

 その日の夜、吾作はおサエと二人きりになりたいからと、看病をしてくれた村人や近所の村人達も来ていたが全員に帰ってもらった。吾作はもう話す事も出来なくなった寝たきりのおサエの枕元で正座して、静かにおサエの顔を見つめていた。そしておサエの手を握りしめていた。おサエは、まだ意識があるのかないのかハッキリしないくらいフワフワした状態で、しかし何かを言いたげな顔をして、口を少しパクパクさせている。吾作はそのおサエの顔を見ながら、

「うん。うん。」

と、つぶやき、おサエに返事を返していた。そんな時間がどのくらい過ぎたか分からないが、そのうちおサエの呼吸が急に荒くなり、吾作が、

「お、おサエちゃんっっ」

と、呼びかけると、おサエは何か少し優しい微笑みを返すと、息を引き取った。

 吾作は、その動かなくなったおサエをわなわなと震える両腕で抱きかかえると、静かに、声も出ないほどに泣いた。泣いて泣いて泣きまくった。おサエの身体を揺すって揺すって、もう戻らないと分かっているのに揺すった。いろんな思い出が頭の中を駆け巡り、吾作は覚悟はしていたつもりなのに、なんでこんなにも涙が止まらないんだろうと思うくらいにさらに泣いた。そんな時間が明け方まで続いた。

 おサエを抱きかかえた吾作は、家の縁側に座り、明るくなる空を見ながら、

「いっしょに行こ。」

と、言った。そしてしばらくすると日が登り始め・・・

「ああ、太陽なんて何十年ぶりに見るやあ・・・」

と、吾作は眩しそうにつぶやいた。

 すると、吾作の身体中から巨大な炎が立ち上がり、吾作とおサエを包み込むと、さらにごうごうと燃え盛る炎は家も飲み込み、巨大な炎になり、煙が明け方の空高く登っていった。

 村の人々がその空高く上がる煙に気づいたのはそんなに遅くはなかった。しかしいざ吾作の家へ行くと、あまりの炎の強さに誰も近づけず、火が消えた時には家の大黒柱さえも燃え尽きてしまっているほど、すべてが燃えていた。なので二人の遺体も全く分からず、村人達は困惑したが、きっと二人は仲良く天へ上がったんだ。と、みんなでそう言いあった。そして、吾作が村にしてくれたお礼と、おサエがその吾作を支えてくれた事への感謝、そして二人が天で安らかに過ごす事を願い、吾作の家の跡地に御堂を立て、いつまでも二人の事を忘れないようにしたという事だ。

吸血鬼 吾作 終わり 

ここまで読んで頂いて、本当にありがとうございました。

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