吸血鬼 吾作 八の二

吸血鬼 吾作

吾作は見張りに気づかれないように海岸には出ずに海岸横の船が座礁したと思われる崖へ遠回りで飛んで移動した。その崖は普通には人が登ろうとは思わない、岩が剥き出しの急斜面で、草木もほとんど生えていない場所だった。崖の上も岩が鋭利な刃物のように尖っている箇所が多く、とても立っていられる場所ではない。なので吾作はほぼ飛んだ状態で崖の先に立ったのだった。

 その崖の上から沈没船を見ると、海岸から人が泳いで行くには辛い距離だという事が分かった。そして船が見事に三つに割れており、その船の真ん中より後ろは完全に海の中に沈んでいるのが分かった。吾作はその後ろ付近から何故か呼ばれている気がしてしょうがなかった。しかし完全に海の中。自分は泳げないし、どうしよう…。と、吾作は少しその場で考えた。

(ええい!どうせ考えても分かんないから、入ってやれ〜!)

と、やけっぱちとも思える考えに達し、静かに水面に近寄っていった。見張りの武士は全く気づいていない。吾作はそのまま静かに立った状態で浸水した。波に揺られながらゆらゆらと、ゆっくりそのまま沈んでいった。

 海に入ってすぐに息が苦しくない事に気がついた。

(あれ?わし、全然苦しくないぞ?どういう事だ?ま、まあ、いいか♪)

と、あまり考えない性格の吾作は周りを見渡した。初めて見る海の中だった。しかも夜。海の中は暗く、木なのか何なのかよく分からない見た事もない生物が海底に根付いており、波に揺られてゆらゆらと揺れている。魚も大小、いろんな種類がおり、やはりゆらゆらと揺れながら静かに寝ているかと思えば活発に動いている魚もいる。この幻想的とも言える海の中の風景に吾作は感動した。

 しかし吾作は感動と同時に思ったとおりに海の中を上手く進めないどころか、波に流されている事に気づいた。

(あれ〜。このままだとどっかに流されてそう。)

と、ちょっと慌てながら海底まで沈むと、なんとか岩を掴んだ。そして体勢を整えると、岩やサンゴを掴みながら海底を進んでいった。

(はあ〜、何とかなったけど、どうやら海の中は上手く動けんみたい。でもキレイでいいや♪)

と、吾作は少し海の中を眺めていたが、(あ、こんな事をしに来たんじゃない!)

と、思い直し、目的地の船の後ろあたりの戸を開けるとそこに入っていった。

船内も真っ暗だったが吾作には何の問題もない。まだ沈んで日にちが経っていないので船内はとてもきれいだが、人の死体が一つもないのがおかしかった。しかし吾作はそこには全く気づかずどんどん船内の奥へ進んでいった。いろんな部屋を見て回っていると、ある部屋からやはり呼ばれてる気がした。吾作はその部屋の扉を開けると、そこはどうやら船長室なのか、とても立派な彫刻や本棚や机、椅子などが沈没した衝撃で部屋に散乱していた。だが吾作はそれどころではなかった。なぜならその部屋の真ん中に、オロロックがうつむき加減で立っていたのだ。

吸血鬼 吾作 八の三 へつづく

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