吸血鬼 吾作 八の一

吸血鬼 吾作

庄屋さんに言われて村中の田んぼの苗を全て植えてから数日が過ぎた。その間に吾作の元には、

「田植えを全部やってくれてありがとう。」

と、お礼として野菜やら米やらを村人達からいただいた。庄屋さんも今回の仕事に感服したのか、それ以来、何も言ってきていない。

吾作はというと、ようやく予定通りに各家のネズミ退治を始めていた。どの家を回るかは吾作が寝ている昼間に村人たちが集まって決めて、その順番の書いた紙をおサエに託したのだった。最初にもらった紙には村の三分の一も名前が書いてなく、吾作は、やっぱり認められてないんだな。と、落ち込んだのだが、田植えの一件以来、吾作をよく思っていなかった人達も、考えが変わったようで、どんどんとネズミ退治の紙に名前が増えていった。吾作とおサエはそれがとても嬉しかった。

そして、吾作は自分の能力にまた一つ気がついた。それは、吾作がネズミを捕る時に気づいたのだが、ネズミを捕る際、手が煙のように空気に溶けるのだった。それに気づいてからは、手だけではなく、体全体も煙に変化して人が入れないような狭い場所など、煙のまま入って行ってネズミを捕まえれるようになった。そのおかげでネズミ退治の効率がよくなり、以前よりもたくさん捕れるようになった。

 しかしそれも長く続かず、ネズミ自体の数が少なくなってきたのか、たいして捕れなくなってきた。これは吾作自身、たくさん捕りすぎたからかなあ。と、考えたが、答えは出ないままであった。

この日もまだ夜明けまでだいぶ時間があったので、久しぶりに海に行こうと思った。と、いうのも、自覚がある訳ではないのだが、何故か呼ばれている気がしていたからである。そんな訳で数日振りに海に向かう道をオオカミになって走った。

前回歩いた時は、おサエと二人で楽しく歩いたけど、まさかこんな事になるなんて思わなかったな。もうおサエちゃんと楽しくお日様の下で散歩がてら歩くなんてないのかな?などと考えてたら少し悲しくなった。そんな事を考えているうちに川沿いまで来ていつも手を合わせていたお地蔵さんの前まで来た。このお地蔵さんにももう手は合わせられないな。やっぱり眩しいし、チクチク刺さって痛いし。吾作はあんなに手を合わせていたお地蔵さんに何故か嫌悪感を感じ始めているのに気がついた。何でわし、今お地蔵さんに嫌な気分がしたんだろ?よう分からんなあ。

そんな事を思っているうちに海の近くまで来たが、吾作は普段と変わっている事に気づき、すぐに足を止め、静かに海岸の見える所まで行くと、その様子を伺った。

 吾作はお気に入りのその小さな海岸の砂浜には、二つかがり火が灯っており、そこに見張りと思える武士がやはり二人立っているのが見えた。しかし今にも寝てしまいそうな感じで、うつらうつらと首が船を漕いでいる。どうやら外国の船から物を持っていかないようにお上から命を受けたようだった。

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