吸血鬼 吾作
そんな訳で吾作はもう一度、自分の墓の前までやってきた。吾作はさっそく煙に変化して、地中の棺桶の中に入ってみた。やはり棺桶の中は、ひんやりしていて居心地がいい。しかしそれに加えて、家の木箱にはない何か、暖かみを感じるのだった。吾作は、この暖かみは何だろう?と、棺桶の中で考えた。しかし答えは分からない。いくら考えても答えが出なさそうだと思った吾作は、
「うりゃ〜〜〜〜〜!」
と、大きな声を出すと、自分の入っていた棺桶をすごい力で地上に引っ張りあげた。
「よし!これで違いが分かるだら。」
と、吾作は言うと、煙になって、その地上に出た棺桶の中に入ってみた。すると吾作にはさっきとは違うものを感じた。と、いうよりさっき入った時の暖かみが消えていたのである。吾作は、
「土の中だからか?」
と、思ったが、すぐにそれを確信した。地上に出ている棺桶の底部分だけに、かすかに暖かみを感じとれたのである。
吾作は、
「わああ~!土かあ〜〜〜〜!」
と、思わず大声を出してしまった。その後安心した吾作は棺桶を戻すと、ネズミ退治へ出かけた。
その頃、家ではおサエとおばあちゃんが、吾作の木箱の中の吾作の着物を出していた。おばあちゃんが、
「ほれ。これ入れりん♪」
と、自分の家から持ってきた数枚の着物をおサエに見せると、
「おばあちゃん、寝る気満々じゃんか〜。」
と、笑った。そしておサエが、その着物をきれいに木箱の底に敷くと、さっそくとばかりにおばあちゃんが木箱の中に入り込み、そのまますぐに横になった。おばあちゃんは、
「おお!狭い!狭いけど、何か落ち着くわ〜♪」
と、その木箱の中をゴロゴロと楽しんだ。おサエはその様子を上から見て笑った。
「これ、わしも作ってもらおうかやあ。」
と、かなりお気に入りの様子。おサエも調子に乗って、
「一回、和尚さんに聞いてみるかん?」
と、話すと、ほだねえ。と、二人で大笑いした。
明け方になり、吾作はネズミ退治を終え家に帰ってきた。
(今日はおサエちゃん、ちゃんと布団で寝とるかやあ?)
と、吾作は考えながら戸をそっと開けるとおサエが寝てるのが見えたのでほっとした。吾作は、軽く手足を洗って部屋に上がり、自分の木箱のフタをそっと開けた。するとそこにはおばあちゃんが。
「わああああああ!」
と、つい叫ぶと、おばあちゃんも目を開けて、
「ひゃあああああああ!」
と、お互いがびっくりして大声を出した。その声に驚いたおサエが、
「何?何?」
と、寝ぼけながらキョロキョロした。吾作は叫んだと同時に尻もちを着いたのだが、
「き、木箱におばあちゃんがおったもんでっっ。あ〜びっくりしたわ〜。」
と、言った。おばあちゃんも、
「あ!ああ~っっ。ごめんごめんっっ。寝るつもりはなかったんだけど、気がついたら寝とってっっ。
あ~びっくりした~!」
と、まだ頭が回ってない中、木箱から出て囲炉裏の前に座り直して、息をハア、ハア、と、荒げていた。おサエも、
「ああ。ごめん〜。」
と、寝ぼけながら吾作に言った。吾作は、
「まあ、まあいいだけど・・・、おサエちゃんといい、おばあちゃんといい、そんな寝心地いいんかん?この木箱?」
と、あらためて聞いた。すると二人は顔をあわせると、
「ほだねえ。気持ちいいねえ~♪」
と、言った。すると吾作は頭をかきながら、
「あ、あのね。その木箱とお墓の棺桶の寝心地の違いがね、分かったんだわ。ほんでもそんなに寝心地いいって言われると、な、何か言いづらくて・・・。」
と、少し困った様子で二人に話した。二人は、
「何?」
と、前のめりで聞いた。吾作は、
「あ、あんな、土。土じゃんねえ。この木箱に足りないのは土だって、分かったんだわ〜。その、お墓の棺桶は土ん中にあっただらあ。その棺桶を外に出して入ってみたら床だけが、気持ちよくて、ほんで分かっただけどさあ。ほんだけど、今度は、じゃあ土をどうすりゃいいのか・・・って、今考えとるんだわ〜。」
この話を聞いた二人は、
「土?」
と、びっくりした後、どうすればいいのか考えた。しかし、いい答えは見つからなかったので、二人は仕方なく畑仕事に出かけていった。一人家に残った吾作は、結局何も思い浮かばないまま、木箱で寝た。
日が暮れて、吾作は目を覚ました。木箱の中はまだあの居心地の良さはなかったが、まあこれはこれで悪くないな。と、思いながら木箱のフタを開けて顔を出すと、部屋にはおサエ以外に村のみんなが勢揃いしていたので思わず、
「わあ!な、何?」
と、木箱の中でひっくり返りそうになった。それを見たみんなは爆笑したのだが、
「おはよ♪いやね、吾作の寝とる木箱がそんなに寝心地いいんかやあ?って、話になったもんで、みんなで来てみただよ。」
と、村人の一人笑いながら言った。吾作は、
「は、はあ。ほでしたかっっ。」
と、半笑いで木箱の外に出た。すると他の村人が、
「これに土をつけるだか入れるだかって話、おサエちゃんから聞いただけど、庄屋さんとこに相談に行ったらどうだん?庄屋さんなら、何か手を貸してくれるだらあ。」
と、言ってくれた。吾作は行く事にした。