吸血鬼 吾作 八の五

吸血鬼 吾作

 おサエの晩ご飯が終わり、吾作とおサエはお寺へ向かった。二人がお寺の門の前まで来ると、吾作はやっぱり痛がり始めたので、おサエ一人が境内に入り、吾作は門から少し離れた所で待っていた。

 少し待っていると、おサエが和尚さんを連れてお寺の門まで来た。吾作はやっぱり和尚さんが眩しくて仕方なかったので、和尚さんに背を向けて話す事にした。

「ん〜・・・、なるほどなあ。まあ、おサエから聞いとったもんで供養はするつもりでおっただが・・・。吾作、おサエ。あ、おサエは昼間に動いとるで知っとるかも知れんのだけどな、こないだの吾作の田植えを一晩で全て終わらした話な、あれ、隣の村とかまで広がっとるらしくてな。ほんで沈没船のトコに何か御利益があるんじゃないかって人が毎日来るようになっとるんだわ。ほんでな、あそこの管轄の役人がわしんとこ来てな。『ほこらか何か立ててほしい。』っつっとるんだわ。ほんだもんでな、近いうちにあそこに慰霊碑でも・・・と、思っとったんだが、あの船、お前さんらが出会った化け物以外に人の死体とか上がっとらんもんで、どうするか考えとったんだわ〜。ん〜。そもそもあの船、何らかの理由でただ漂流してただけの無人の船だったかも知れんしの。」

と、吾作の話を聞いた和尚さんは今の状況の説明をすると、少し黙り込んでしまった。吾作とおサエは、あの船に人が乗っていなかったのか?と疑問に思ったが、これ以上考えても何も出てこないので、ただただ和尚さんの話を聞く事にした。

「しかし、吾作から受けとったあの飾り物があるで、供養・・・、ん〜。まあ少しだけ待っとってくれんか。ほいだで今日のところは帰りん。」

そう和尚さんは言うと、お寺の中へ戻ろうとしたが、

「ほだほだ!昨日、海沿いの村で海坊主が出たらしいぞ!吾作と言い、なんか最近よう分からんわあ。」

と、言った。吾作とおサエは、ちょっとびっくりして顔を見合わせ、

「なんかすごいねえ。」

「わし以外にも化け物出てくるなんてなあ〜。」

と、関心していたが、吾作はそれが自分の事とは、全くもって思っていなかった。その会話の間に和尚さんは境内に戻ってしまったので、二人も仕方ないので帰る事にした。

 次の日、おサエは畑仕事もそこそこに海の様子を見に行った。おサエが一人で海に行く事はいままでなかったが、昨日の話もあるし、気になってどうにも見に行きたくなったのだった。しかし吾作がいない海までの道はおサエにはつまらなくてしょうがなかった。それでも海岸まで行った。

 海岸に着くと、見張りの武士以外にも何人もお役人が海に船を出して沈没船からいろいろと引き上げているのが分かった。そしてそれを見届ける見物人と、吾作の評判を聞いて御利益にあやかりたい人々で小さい海岸がごった返していた。

「何かえらい事になっとるわ〜・・・。」

と、おサエは呆気に取られてしまった。その人混みの中に和尚さんがいるのを見つけた。

「おお。おサエ!来たんか!」

と、和尚さんもおサエを見つけて声をかけてきた。おサエは、

「気になって来ただけど、何かどえらい騒ぎになっとるもんで面食らっちゃいましたわ〜。」

と、話すと、

「ん〜。わしもどんどん人が増えてるのに驚いとるだて。ほいでな、今そこの役人と話しとっただけどな、やっぱり死体が一つも上がらんっつー事でな、慰霊碑は建てないって話になったわ。ほいでもこの人だらあ。ほんだもんで御利益を授かりたい人の為に、観音様の入った御堂をここに建てようか?って話になっとるわ。ほいだでついでに吾作からもらったあの飾り物も、そん時に奉納して供養しようかと思っとる。ほんでいいだらあ。その化け物も天国に上がれると思うに。」

と、和尚さんは説明してくれた。おサエは、へえ〜、ほ〜、と話を聞く一方だったが、最後の話を聞いて少し安心した。

 吾作は暗闇の中にいた。すると暗闇の中に一人、男が立っているのが見えた。吾作は、

「誰?」

と、声を出すと、その男は振り返った。

「おまえ、夢の中の事を、まるっきり覚えていないだろ!」

と、クレームをつけてきた。その男はオロロックだった。吾作は、

「おろろ〜!」

と、驚いたが、オロロックは冷静に、

「そのリアクションも昨日見た。」

と、言ってあきれていた。そして、

「まあ、本当はおまえにネックレスを持っていてもらおうと思っていたが、まさか天にいる妻の元にネックレスを届けてくれるとは思っていなかったのでな。 

 さすがに感動したよ。本当にありがとう。」

と、吾作に頭を下げた。吾作は何の事だかいまいち分かっていなかったが、

「おろろ〜に、わし、いい事出来ただな?ちょっとホッとしたわ。」

と、にこやかに言った。それを聞いたオロロックは、

「おまえ、大物かもな。」

と、鼻で笑いながら言うと、暗闇に消えていった。吾作は何故だかオロロックが全く恐くなくなっていた。

 夕方になり、日が暮れると吾作は目を覚ました。おサエはもう晩ご飯を食べており、

「おはよ♪」

と、言った。その顔は何か嬉しそうだった。

「おはよ。」

と、吾作が答えると、おサエがウキウキとした顔で、

「和尚さんがねえ。海岸に観音様建ててくれるんだって!そこにあの飾り物も納めるって言っとったよ♪」

と、言った。それを聞いた吾作は、

「え!ほりゃよかったわ!・・・なんか夢でおろろ〜に会ったような気がするんだけど〜・・・忘れちゃった。」

と、言った。

 数週間後、海岸に観音様の納められた御堂が完成し、おサエはその様子を吾作の代わりに見届けた。その時、同じ村の人達から、こんな会話が聞こえてきた。

「和尚さんなあ、本当は吾作に頼みたい事があるらしいで。何でもお寺にネズミが大量に占拠しとって困っとるらしい。」

吸血鬼 吾作 九の一へつづく

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