吸血鬼 吾作
夜になり、おサエが畑仕事から帰ってきた。吾作は目を覚まし、
「おサエちゃん!おかえり!」
と、大声で言った。自分でもびっくりするくらい大きな声だったので、当然おサエもびっくりした。そして吾作は体調が戻りつつあるのを感じていた。しかしまだ起き上がるほどではなかった。
「ただいま〜!吾作、元気になっただねえ!えがったわ〜。」
と、おサエは安心してご飯の支度を始めた。その支度をしながらおサエは吾作の体が動かなくなった話を聞いた。
「ほりゃやっかいだったねえ。でも今は元気だもんでもう忘れりん。」
と、簡単なお粥を用意した。吾作は体を起こす事がやはり出来なかったので、結局お粥は食べなかった。二人は少しガッカリした。
おサエは畑の仕事をして疲れていたし、吾作も寝ているので自分ももう寝よう、と思い布団を敷いて寝る準備をしていた。その横で吾作は何だか目がとても冴えている気がしてきた。さっきよりも明らかに元気が戻ってる。その確信があった。そこでちょっと起きてみようと思った。すると自分でもびっくりするくらい上半身が起きてびっくりした。横で布団を敷き終わったおサエがその吾作の様子を見て、
「え?」
と、ちょっと固まった。吾作は、
「おサエちゃん。何かわし、元気が戻ってきたみたい!」
と、言った。おサエは、
「え?」
と、言い、もう寝る時間だけど吾作が起きてくれたのは嬉しかったので、
「ご飯・・・食べてみる?」
と、吾作に聞いた。吾作は、
「うん。」
と、答えた。しかし温めなおしたお粥を目の前にすると、なぜだかやっぱり食欲が落ちた。吾作も意味が分からず、二人でなんでだろうなあ?と、困ってしまった。それに元気になったと言っても自分でも分かるぐらいに痩せてきて、肌の色も青白くなってきてしまった。そんな感じなので本当におサエは心配して、
「ちょっとでもいいでご飯食べれん?」
と、言ったが、やっぱり吾作は食べれんかった。しかし、そのかわり、何かが無性に飲みたくなってきた。ただ何かが分からない。でもやたら喉が乾いた。それで吾作は水を飲めばいいかと思い、水を飲みに土間へ行って口に含んだ。しかしその場でブー!と吐き出してしまった。水じゃないみたい。じゃあ何だ?と、吾作は思っていると、妙に血が飲みたくなってきた。
(え?血?血なのか?)
と、思っていると近くにおサエがやってきて、
「大丈夫かん?どしたの?」
と、心配そうに吾作の顔を見た。吾作はふいにおサエの首筋に口をつけたくなった。そして吾作はおサエの両肩を掴むと、おサエの首筋を噛もうとした。おサエは、
「何?どしたの?吾作?」
と、何の疑いもなく聞いてみた。するとその声で吾作は我に返り、両手をおサエから離した。
「い、今、わし、何した?」
と、言うと、昨日のあの男に首筋を咬まれたことが頭をよぎった。
「わし、わし、あの男と同じになっとるっっ!」
と、吾作は言うと、そのまま家を飛び出してしまった。