吸血鬼 吾作 三の一

吸血鬼 吾作

 吾作は無我夢中で走り、走って走って走りまくり、吾作でもよく分からない田んぼの真ん中へやってきた。

「わし、わしは何をやっとるんだ?わし、どーした?」

と、自分に問いかけてみた。何だか自分がよく分からなくなっていた。そして昨日の出来事を考え直してみた。

(昨日、あのおろろ~・・・を助けたら首咬まれて~・・・血を吸われて~・・・あの男はお日様の日を浴びたら燃えちゃって~・・・で、わしもおサエちゃんを咬もうとして~・・・えええええええええええええ!)

 と、ふだんあまり考えない吾作は考えれば考えるほど混乱してきた。わし、どーする?どーなる?と、一人で騒いでいると、あることに気が付いた。

「あれ?わし、汗を全くかいとらん。」

家からかなりの距離を走ったというのに、吾作は汗を一滴もかいていなければ、息も全くきれていなかった。そこに気が付いた吾作は少し冷静になり、さらにいろいろと気付いた。ここまでの道中、無我夢中で走ってたからあまり気にならなかったけど、何故かお地蔵さんやお寺や神社が全て火事なのか光って眩しかったのは何だったんだ?お地蔵さんの横を通った時なんか、光が刺さるようでなんか痛かったから避けちゃったし。それに…

「夜ってこんなにきれいだったっけ?」

吾作の目には何故か夜がとても透き通っているようだった。確かにこの日の夜はお月様がまんまるでよく見え、星も一つ一つがとてもきれいに輝いていたが、月の光の届かない暗くて全く見えなかった暗闇の奥の道や、木々、草花、遠くの山々に生えている木の一本一本まで、すべてがはっきりと見え、それでいて幻想的で神秘的に写った。前足のそばで動いている虫や田んぼの中のオタマジャクシなどもちょっとキラっと光って美しかった。こんなきれいな世界に自分っていたんだっけ?と、思った吾作は、何だか急にワクワクしてきた。

 (あれ?前足?前足?)

ここでまた一つ、自分の変化に気づいた。自分の両手が獣の足になっていたのだ。

「そういえばさっきから目線が低い気が…とは思っていたが、気がつけば自分は四つ足になっていたのか!)

と、また吾作は混乱した。そして恐る恐る田んぼの水に顔を写してみた。そこに写っていたのは大きな犬であった。いやこれは狼だ!と、吾作は直感で確信した。事態を把握した吾作はどうしたらいいか分からず、わんわん泣いた。

(わし、わし、狼になっちゃったよ〜!人間に戻りたいよお〜!)

と、大泣きした。すると気がつけば人間に戻っていた。

「あ〜ん、あ〜ん、ああ?…」

と、自分が人に戻った事に気づいた吾作は、なんだかすんごく疲れたが、どうして狼になった?と、考えた。

 これはひょっとすると狼になりたい時はなれるのか?と、思った吾作はさっきまでの不安はどこかに吹っ飛び、むしろ楽しくなってきた。狼になれるか試したくなった吾作は、思いっきり、

(わし、今から狼!)

と、願いながらさらに走って走って走りまくり、森の中へ走っていった。すると吾作の体はすぐに狼に変化して、はやての如く走った。吾作は、

「やっぱりわし、狼になっとる!」

と、喜ぶと、どんどん森の中へ入っていった。そしてあまりにも森の中にきたので、帰りのことを考えて足を止めた。するとすぐに人に戻った。そして冷静に森の中を観察した。真っ暗なはずの森の中も、今の吾作にはすべてはっきりと見えた。そして更に一つ気が付いた。すべての動物が自分から逃げるようすがなかった。吾作は何でか分からなかったが、そこへ一匹のウサギが現れた。吾作はそのウサギを見つけると何も考えず普通に捕まえて首筋をガブっと咬み、血を吸った。そしてウサギの血を飲み干してしまった。

「こ、こりゃ美味いわあ~!」

と、ウサギの血の味がこんなに美味しいのかと感動した。もっと飲みたくなってウサギをチューチュー吸ったが、血はもう出そうになかった。あ~、全部飲み終わっちゃったかあ~・・・と、その血がなくなって骨と皮になったウサギを見て吾作は我に返った。

「わし、なんてかわいそうな事・・・ごめん・・・・」

と、とても悪いことをしてしまったという罪悪感が急に出てきて、吾作は悲しくなった。そして吾作はあの男のことをまた思い出した。(あの人は、きっと自分の首筋を見た途端、無意識で噛んじゃったんた。それくらいあの人は弱ってたんだ。きっとそうだ。)

吾作はそう思いながら、手に持っていたウサギを埋葬しようかとも思ったが、そのまま持って家に帰ることにした。帰りは落ち込んでいたからトボトボと歩いていた。

吸血鬼 吾作 三の二へつづく

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