吸血鬼 吾作
しばらく代官の屋敷の門の前で待っていた吾作と庄屋さんだったが、吾作がふいに、
「わし、ここからなら入れるんだろか?」
と、門の間の空間に手を差し出した。するとやはり空気のクッションのような物を感じ、手が押し返された。庄屋さんその様子を見て、
「嘘だら?」
と、言うと、吾作と同じように門の間の空間に手を差し出した。しかし吾作のように押し返される事はなく、
「ホントに跳ね返されとるんか?」
と、庄屋さんはまだ疑っていた。吾作はもう一度、と、手を差し出すが、結果は同じだった。
「何か、訳わからんわあ」
とと、半ば呆れていた庄屋さんにたいし吾作は、
「ほんなん言ったって~、どうしよう〜。」
と、言うしかなかった。
そんな事をしている最中に門番が、走って門まで帰ってきた。
「中へ入っていいそうだ。ほいで、村人達はみんな、屋敷の裏庭におるで、そちらに行くように。」
と、言った。庄屋さんは、
「ありがとうございます。よし、行くに!」
と、言うと中へ入ろうとした。しかし吾作は入る事ができるのか、とても不安だった。そこで庄屋さんは、
「ほれ!行けるて。入るに!」
と、とりあえず行く事を促してきた。吾作は、
(よ〜し!ダメ元で入ってやれ〜!)
と、思い、勢いよく門の中に入って行った。すると先程まで布団があるかのように跳ね返されたのが嘘のように中に普通に入れた。吾作は入れないのを覚悟していたので、自分でも驚いて、
「は!入れた~!」
と、つい大声を出してしまった。庄屋さんはそれにはちょっと驚いて、よかったと言う前に門番の顔を見た。すると案の定、門番は、
「暗くて分からなかったが、その男の顔?何か変じゃないか?」
と、聞いてきた。すると庄屋さんは慌てて、
「あ、この男は生まれつき、変わった顔をしているのでございます。決して怪しい者ではありません。わしの付き人です。」
と、ごまかした。門番は、
「そ、そうか。生まれつきなら仕方ないだろう。すまなかったな。」
と、言うと、あまり見ないようにしてくれた。そのおかげで門の中に入った吾作は、竹林を抜ける手前、屋敷の裏庭に行く直前の場所まで来たところで、
「ほいじゃ、わし、やりますわ。」
と、庄屋さんに言うと、ふわっと煙になって空気に溶けていなくなった。庄屋さんは、
「あいつはすげ〜な。」
と、感心すると、いかんいかん!と、裏庭に走って行った。