吸血鬼 吾作 十一の一

吸血鬼 吾作

 明くる日、吾作の葬式が何事もなく行われた。

吾作の遺体を入れる棺桶は、間違って吾作が日に当たって燃えてしまうといけないという事で、家の土間に無理矢理置いた。そして不自然に吾作の遺体から仏具一式と和尚さんが座り、でたらめなお経を唱え始めた。そのでたらめなお経を聞きながら村人達はおいおいと泣いていたが、さすがに全部芝居と分かっているおサエは全く泣けなかった。しかし、

(泣いたフリぐらいしないと周りの人から疑われるかも)

と、思ったおサエは、とりあえず下を向いて顔に時折り手を当てて、涙を拭くような芝居をしていた。そしてお経も終わり、吾作を棺桶に入れる事になった。江戸時代の棺桶は樽のような形をしていて、亡くなった人は体育座りのやうな格好でおさまるの普通なので、吾作も例に違わず体育座りのように与平や権兵衛達が折りたたみ、棺桶におさまった。

 その様子を何気なく見ていたおサエだったが、ふと、

(本当に吾作が死んだらこうなるんだ。)

と、思った途端、涙がぼろぼろ流れてきて、急に寂しさが込み上げてきた。これを見ていた村のおばあさん達もつられてわんわん泣いた。

 そうして吾作の入った棺桶は、村の墓地の中でも全く日の当たらない場所が選ばれ、そこに埋められた。おサエはその一部始終を見ていたが、やはり一度出た涙はおさまらず、

(これからしばらく一人であの家で暮らさんといかんのかなあ。でもずっと一人だったら、ホントに嫌だ!)

と、思いながら、他の人がいなくなってからも、その墓標の前から動かなかった。その姿がまた村人達の涙を誘って、

「何でこんな事になっちゃったんだらあ。」

「まあ、見とれんわっっ。」

と、同情されたのであった。そんな感じで葬式も終わり、おサエと葬式に出た村人達は吾作の家に戻ったが誰も自分の家に帰ろうとはしなかった。家の中は狭いのでほとんどの人が外にいたがその中の一人が、

「なあ、葬式の時、何か後ろの方に知らんヤツおったの見たかん?」

と、言いだした。

「ああ、見た。何か侍みたいなヤツだった。」

「わしも見た。」

「昨日もおった。」

と、続々と目撃談が出てきた。その中に、

「わし、後をつけて、家突き止めたで。」

と、言う者が現れた。

「何?ほんなん今から行こまい。まあわし頭に来とって来とって!」

「わしもじゃ!」

と、怒りを言葉に出す男が現れた。しかし他の村人が、

「だめだて!相手は侍なんだら?逆にやられるてっっ!行くんなら庄屋さんと話してから、みんなで行こまい。じゃないと、危ないで。」

と、慎重な話を持ちかけた。

「ん〜・・・」

と、怒った村人達は確かにその通りだと思い、少し考え始めた。

そんなやり取りが行われるとは全く知らない家の中にいたおサエは、むらの女衆が自分を心配して帰らないし、家の外には人は残っているのが気が気ではなかった。

(こんな状態で間違って吾作が家に顔を出したらまあ大混乱だわ。みんなそろそろ帰ってもらった方がありがたいんだけどなあ・・・)

と、自分の事を想ってそばに居てくれてるのは分かってはいるんだが、やはりハラハラが止まらなかった。

かと言って、それを表情にも出せず、とりあえずおばあちゃんがの用意してくれたご飯をつまみながら話を聞いていた。そんな時、

「なあ、やっぱり今からみんなで侍のトコまで抗議に行かんか?みんなで抗議すれば、侍も何もせんと思うで。」

と、村人の一人が家の中のみんなに声をかけてきた。そんな話になっていると思っていなかったみんなは、

「え?今から?」

と、面食らった顔をしていたが、

「私、行きたい!腹立ってしょうがないで!」

「ほだほだ!」

と、すっかりみんなその気になってしまった。おサエは、

(これはヤバい!何とかせんとっっ)

と、思った。そんな時そこにいた一人が、

「おサエはどうする?私らみんな行くで!」

と、おサエに聞いてきた。

「わ、私も行くわ。私の旦那の事だし。」

と、言うしかなかった。

吸血鬼 吾作 十一の二 へつづく

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