吸血鬼 吾作 九の一

吸血鬼 吾作

 おサエは夕方、村人達が話していた事をどう言おうか考えていた。その内容は、

”お寺にネズミが大量に占拠して困っている。”

と、いうもの。いつもの吾作なら、さっさとネズミを捕って終わりなのだが、吾作は化け物になってからお寺に入れないのであった。寺に入れないだけならまだしも、寺の近くにいるだけで、吾作いわく、「光が刺さって痛い。」らしい。実際、ついこの間も和尚さんに会いに寺へ行っても痛くて中には入れなかった。

「はあ、どうしよ・・・」

と、おサエがため息をつくと、日が沈んだのか吾作が目を覚ました。吾作は、

「おはよ♪」

と、いつものように元気である。しかしおサエの困った顔を見て、

「どした?何かあった?」

と、まっすぐな目で聞いてきた。おサエも話さない訳にもいかないので、村人達が話していた事を言うと、

「ええええ~っっ。お寺のネズミ?ええええ~っっ。」

と、やはり露骨に嫌がった。しかしすぐに、

「あ、」

と、一言もらすと考えこんでしまった。おサエは、

「何?何かあんの?」

と、聞くと、

「あ、いや、ネズミ。ネズミね、最近、家を回ってもあんまり捕れんくなっとったんだわ。だからわしは、てっきりまあ全部退治しちゃったんかなあ~・・・って、思っとったんだけど、ほんなトコにネズミは避難しとったんだねえ。」

と、吾作は妙に納得した表情をした。おサエも、

「はあ~。」

と、一緒になって感心し始めたが、

「いやいや、吾作!ほんでどうするだん?」

と、聞いた。それを聞かれた吾作は、

「えええ~!ほんなん言われてもわしじゃどうしようも出来んてえ〜。だってお寺さんの中だらあ。無理だてえ~。」

と、あっさり降参したのだった。そんな答えが返ってきたのでおサエは、

「ん~・・・、まあちょい考えてみいへん?和尚さんも困っとるだよ。」

と、説得したが、

「ええええ~。」

と、吾作は嫌がるだけでその後は何も考える事はしなさそうだった。おサエはその吾作を見て、

「まあ、分かったわ。あ~あ、和尚さんかわいそ。」

と、ちょっとキツい口調で言うと、

「ほんな怒らんでよ。わしだって出来ん事あるにっっ。」

と、吾作も困った感じで返した。しかし実際、吾作にはどうしていいか分からなかったし、どうしようもなかった。そんな話をしていると、近くの村人が家にやってきた。挨拶もそうそうに済ますと、

「何かよう分からんのだけど、庄屋さんが、隣村の庄屋さんからネズミ捕り頼まれたって言われたらしくてな。詳しい話は聞いとらんだけど庄屋さんが来いっつっとったもんでな。呼びに来たんだわ。ほいだもんで今から行こまい。」

と、言うと、村人は外で待ってると言い、家の外に出た。吾作は、

「え?今から庄屋さんとこ行かんといかんの。何かやだなあ〜。」

と、愚痴をもらしたが、おサエは、

「さっきから吾作はグチグチうるさいわ!早よ支度しりん!」

と、叱った。吾作は、

「わ、分かったよ~っっ。」

と、少しオロオロしながら支度をし、村人と庄屋さんの家に向かった。

吸血鬼 吾作 九の二につづく

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