吸血鬼 吾作
吾作が海から家に帰ってくると、もう日の出前だった。まだおサエは寝ていたので静かに土間で濡れた服を脱いで外に干し、スッポンポンで部屋に入り、着替えを押し入れから出して着替えた。そして自分の布団を敷いてその場に座ると、吾作は手に持ったネックレスを見て、
「これ、なんだろ?」
と、首をかしげた。その時、
「それ何?えらいキレイじゃん。」
と、寝ぼけまなこでおサエが言った。まだおサエは布団から出ようとはせず、布団の余韻を楽しんでいた。
「ああ。これ、何だか呼ばれとる気がしとったもんで、沈没船まで行ってきただよ。ほいで船の中入ったら、あの、おろろ〜がおって。びっくりしただけどこれを指差しとったもんで『これ?』って聞いたら消えちゃったもんで、持って帰って来た。」
と、吾作は説明した。それを聞いたおサエは、
「え!おろろ〜!だって燃えちゃったじゃんか!それ、ど、どうすんの?」
と、かなり動揺して布団から飛び起きて前のめりに正座した。吾作はしまったと思いながら、
「あ、おろろ〜は消えちゃったもんで大丈夫だで。ほいでもこれどうしようねえ。何かおろろ〜の大事なもんなのかも知れんねえ。」
と、言った。するとおサエは、
「ええ〜!私やだよ、ほんなん家に置いとくの〜っっ。」
と、本当に嫌なんだな、と、分かりやすい態度をとった。
「ほ、ほいじゃあ和尚さんに相談しよまいっっ。ほいでいいだら?」
と、吾作。おサエは、
「ん〜・・・。まあ、分かったわあ。ほいじゃ今日和尚さんトコにそれ持ってくでね。」
と、言ったので、
「うん。お願いします。」
と、吾作は言うと、布団に入って寝てしまった。
吾作は暗闇にいた。その暗闇の中に一人、背の高い男が立っているのが見える。吾作は、
(誰だ?)
と、思いながらその男に近づいていった。するとその男は吾作に気づき、顔を吾作に向けた。それはオロロックであった。吾作はとても驚き、
「お、おろろ〜っっ?」
と、つい叫んだ。
オロロックはとても、落ち着いた態度で、
「あれを拾ってくれてありがとう。あれは私が妻にプレゼントした物で、とても大切な遺品なのだ。私を殺したおまえにこんな事を頼むのも嫌なんだが、おまえが私を殺したのもきっと縁だったのだろう。あのネックレスを本当は神の元へ旅立った妻に届けてほしいが、それは難しいだろうから、せめて、おまえに大切に保管してほしい。おまえには何が何だか分からないだろうが、私には大切な願いなのだ。頼んだぞ。」
と、言うとオロロックは煙のように暗闇に溶けてしまった。吾作は何が何だか本当に分からなかった。
夕方になり日が落ちると、吾作はいつものように目が覚めた。この日も夢見が悪く、朝からいい気分ではなかったが、それより何か夢の中で頼み事をされたような気がした。が、結局、何も覚えだせなかったので、
「まあ、いっか。」
と、夢の事など忘れてしまった。
おサエはいつものように夕飯の支度をしており、
「あ、吾作起きた〜?」
と、声をかけた。吾作は、
「うん。起きた〜。」
と、返事を返すと、
「あ、今日、吾作の持ってきたあのおろろ〜の飾り物ね、和尚さんトコに持ってったよ。」
と、おサエは昨日のネックレスの話をし始めた。
「そしたらねえ。和尚さんねえ。『じゃあ供養してあげるか〜。』って言っとったよ。どうやって供養するかは聞いとらんけど。」
その話を吾作は聞いて、
「あ、ほか。ほんならよかったわ。きっとお寺さんでやるんだら〜。」
と、ほっとしながら話をした。しかし、
「今思っただけど、おろろ〜の供養もしてあげんといかんじゃないかやあ?」
と、吾作は疑問に思って言った。おサエは、
「ああ〜、ほだよねえ。でもいっしょにやるんじゃない?」
と、軽く答えた。何だか気になった吾作は、
「お寺さん行ってくるわ〜。」
と、言うと、外に出てってしまった。おサエは、
「大丈夫なのかな〜?」
と、独り言をボソっと言うとすぐに吾作が帰ってきて、
「わし、お寺さん中入れんかったわっっ。おサエちゃん!いっしょにいかん?」
と、言ってきた。おサエは、
「晩ご飯食べてからね〜♪」
と、返し、ゆっくり晩ご飯を食べた。