吸血鬼 吾作
おサエはまだ畑仕事をしていたが、
「吾作が、吾作があ〜!」
と、村人が走ってきたので、ただ事ではないと思い、その村人と話した。
「吾作が、吾作が、化け物になって死んどる!」
その言葉を聞いたおサエは、慌てて家へ帰った。おサエが戻る時には大声を聞いた他の村人たちもぞろぞろ家へやってきた。みんなをとりあえず家にあげないようにして、おサエは布団がめくれたままの吾作の顔を見た。吾作は相変わらず目をランランと開けたまま、微動だにせず、仰向けに寝ていた。
これにはおサエも驚いてちょっと後ろへ飛びのいてしまった。しかし体勢を戻して吾作の体を揺すると、
「吾作!吾作!」
と、呼びかけた。しかし吾作は全く反応しなかった。そして吾作の体がとても冷たい事にも気がついた。その体の冷たさにおサエは吾作が死んだんだと思った。そして吾作の体に覆いかぶさりながら、
「やだ〜!やだ〜!」
と、泣き始めた。これを家の外で聞いていた村人たちは、吾作が死んだ事を悟り、様子を伺いながら家の中へ入ってきた。おサエは体を起こし、吾作の横で正座で座っていた。もう顔は涙でくちゃくちゃだった。
「ご、吾作は、亡くなっちゃったんか?」
と、村人の一人が聞くと、おサエはコクリと頭を動かした。
「やいやい!ホントに?」
と、数人の村人が部屋に上がって吾作を見るなり飛びのいて、
「ば、化け物!」
「おサエちゃん!こりゃ化け物だわ!吾作じゃねえ!」
と、騒ぎはじめた。それを聞いたおサエは、
「こりゃウチの吾作だわ!とろい事言うな!」
と、泣きながら怒った。しかし村人たちは、
「おサエちゃん!なんかに憑かれちゃったんと違うか?大丈夫かん?どう見てもこれは吾作じゃねえって!」
と、おサエの話を聞かないのであった。
そんな時に日は落ちた。するとさっきまで目を開けたままで微動だにしなかった吾作が顔を動かしはじめ、体を起こした。村人たちは、
「ご、吾作が起き上がった〜!」
「ば、化け物だあ〜!」
と、慌てふためきながら家から出て行ってしまった。吾作は、
「え?」
と、キョトンとしていると、横でボロボロに泣いているおサエを見た。
「え?」
と、また言うと、
「このたわけ〜!」
と、おサエに思いっきり頭を殴られると、さらに座ったまま蹴りを五発ぐらいくらい、わんわん泣かれてしまった。