吸血鬼 吾作 十二の一

吸血鬼 吾作

 抗議をするために歩いてきた村人達は、大きな屋敷の前まですでに到着していた。もちろんその中にはおサエの姿もあり、みんなが無茶しないかドギマギしながら様子を伺っていた。

 その屋敷は立派な塀と門があり、その門の向こう側には竹林が見える。その向こうに屋敷があるのだろうが、竹林が邪魔をして思うように奥は見えず、灯りが少し灯っているのが分かるだけである。どう見てもここはお偉いさんの屋敷だと、その場にいる全員は認識していた。

「まあさっさと中に入ろまい!」

「いや、この屋敷は侍の家にしてはデカ過ぎるだら?今日はやめた方がよくないか?」

「気軽に入ると後が恐いかもしれんぞ。」

と、村人達は門の前でどうするか決めかねていた。

「おサエちゃんはどう思う?」

と、村人の一人がおサエに聞いてみた。

「ん〜・・・、私もこの屋敷の入口見ただけで、入らん方がいいと思うけど・・・。昼間ならまだしも今、夜だし。講義するならちゃんと手順を踏まんと、ここはいかん気がするわ〜。」

と、おサエは、

(村人達が引き返す方へ気持ちが変わってくれないかな〜・・)

と、慎重な意見を出した。

 しかしそんな話をしていると屋敷の門の奥からお侍さんが姿を現した。

「さっきからおまえら、何を代官様の門の前でギャーギャー騒いどるだん?何か用なのか?まだ代官様も起きとるで、話だけでも聞いてやるぞ。」

村人達はそのお侍さんの顔を見て、

「あ!あんた!あんただ!あんたが吾作の葬式を遠くから見とったんだわ!この人だわ!」

と、騒ぎ出した。

「何?」

と、お侍さんの目がきつくなった。それを見た村人達は、いっせいに後ずさりした。お侍さんはまだ睨みをきかせている。すると村人の一人が、

「わしらは吾作と同じ村の者です。わしらは何で吾作が殺されたのか、納得出来てないんですわ。それで、葬式が終わったと同時にこちらへ向かったって訳です。ただ、この屋敷がお代官様のお屋敷とは全く知りませんでしたわ。」

と、侍に話をした。侍は、ん~・・・とため息をついた後、

「・・・・なるほど。わしがあの化け物に矢を射って殺した事で抗議したいと言う事だな。分かった。ほんならまだ代官様も起きとるで、みんなで中に入りなさい。話は中で聞こう。」

と、そこにいる村人達全員に入るよう促した。

「い、行くに!」

と、村人達はドギマギしながらも門の中へ入っていった。おサエは、

(あのお侍さんが吾作に矢を射ったんだ・・・)

と、思いながら一緒に入っていった。

 門を抜けると見事な竹林があり、その奥に思ったより大きくはないが、立派な瓦屋根の屋敷が姿を現した。村人達は、てっきりその建物に入るのかと思ったのだが、その建物には入らず、その建物の裏側に通された。そこは裁きをするような、または剣の手合わせでもするような何か物々しい場所で、侍はそこまでみんなを通すと、

「少し待っていなさい。」

と、言うと、一人屋敷の中に入っていった。村人達は、

「何かここ、やな感じの場所だなあ。」

「なんか、今更だけど、えらい事になってきたんじゃねえか?」

と、言いながらも、みんな神妙な面持ちでしばらくその場で待っていた。おサエは、

(あのお侍さんには頭に来てるけど・・・何も起こりませんように!)

と、祈るしかなかった。

吸血鬼 吾作 十二のニ へつづく

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