吸血鬼 吾作
吾作とおサエは、葬式の次の日から、毎日夜になると村の各家に、
「吾作が死んだ事や葬式がすべて芝居でした。すいませんでした。」
と、いう謝罪と、頂いた香典を返しに回った。しかし隣村の庄屋さんの出来事や代官の屋敷での出来事も村人達は全員知っていたので、皆が、
「まあ、いろいろ大変だっただで、いいだよ。」
と、仕方ないという感じではあったが許してくれた。
その一方、吾作のネズミ退治はさらに範囲が広がり、隣村はもちろん、代官が仕切っている範囲の村はすべてネズミ退治をするという話になり、吾作は大忙しとなった。そして最初に訪れる土地には代官の手下の侍二人にも同行してもらい、
”自分は人に危害を加えませんよ。”
と、説明もしながら回った。また代官もまたに吾作を呼び、空中散歩をしたり、狩りの相手をしたりと、代官からも気に入られ、
「わしの下で本気で働かんか?」
と、言われるまでになっていた。しかし吾作にはそんな気がないので、そういった話はすべて断ったのであった。そんな日々を過ごしていたのだが、吾作には葬式以来、一つだけ考えている事があり、それをおサエにどう相談するか悩んでいた。
そんなある夜、吾作は意を決しておサエに相談する事にした。その日もおサエはいつものように畑仕事を終えて、家に帰ってから自分の分の夕飯を作り終えて、囲炉裏に前に座って食べ始めていた。そしていつものように囲炉裏の反対側に座っている吾作にその日あった出来事を話していたのだが、吾作の態度がおかしい事に気づいたおサエは、
「何?どうかしたの?」
と、聞いてみた。吾作は少しモジモジしながら、
「あんな、わし、ちょっとずっと考えとった事があってな。ちょっと怒らんでほしいんだけど、わし、ちょっと前に葬式やった時、お墓で寝ただらあ。やっぱりあの時の快適さが今ないんだわ。ほいでな・・・」
と、話していたのだが、その話の最中におサエの目から大粒の涙がどんどん込み上げてきた。その顔に気づいた吾作は、
「あ!違う違う!泣かんで泣かんでっってば!何がお墓の時と家で寝とる時と違うんか調べたいんだわっっ。わしだってお墓で寝泊まりするつもりはないでっっ!ほ、ホントだでっっ!」
と、アタフタしながらおサエに話した。おサエは、
「・・・お墓に戻るつもりはないんだね?」
と、吾作の顔を真っ直ぐに見つめながら聞いてきた。吾作は、
「あ〜へんよ。毎回お墓に戻るのヤダて。わしも死んどるみたいでっっ。」
と、そこは全否定した。
「ほんでもな、あれだけ快適に寝れたのは、何か家と決定的な違いがあるからだとは思うんだわあ。それを見つけて、出来たらここでもそうしたいんだて。」
と、吾作はおサエに言った。
「そんなに違うん?」
と、おサエが聞くと、
「ん〜。説明できんけど、何か寝起きがめっちゃ気持ちよかったし、その日一日めちゃくちゃ元気だった。」
と、言った。確かにその日は、隣村の庄屋さんの家で一騒動起こした後、庄屋さんと代官の屋敷でもう一騒動起こした日であった。それを思い返し、おサエは、
「ん〜。分かったわあ。ほいじゃどうしよか?」
と、吾作の願いを叶える方向で話を進ませた。
思わぬ話をされたおサエは若干動揺したが、ようは毎日の眠りが全然違うんだな。と、納得し、翌日の日中に、和尚さんにその話をしにお寺へ出かけた。ちょうどその時間は『寺子屋』の時間だったらしく、和尚さんが子供達にいろいろと勉強を教えていた。おサエはそれが終わるのを待ち、子供達が帰ると、おサエは和尚さんにあいさつして、本堂の縁側でさっそく吾作の話をしてみた。すると和尚さんは、
「ん〜、ほうか〜。お墓の中なあ〜。何が違うかやあ?」
と、少し考え、
「まあ、全部違うで、いろいろ試してみたらどうだ?何なら棺桶を掘り起こして家まで運ぶか?」
と、言ってくれたが、
「ほんなん家ん中入らへんわ〜っっ。」
と、笑いながらおサエは断った。すると和尚さんは、
「ほだわなあ。ほいじゃせめて人が寝れる感じに木箱を作ってみるか?」
と、言ってきた。その話を聞いたおサエはオロロックが大きな木箱から出てくるのを思い出した。
「ほだ!きっとそれがええわ!あのおろろ〜も大きな木箱に入っとったで!」
と、和尚さんの考えに賛成した。そしてさっそく家に帰ると、吾作が早く目を覚まさないかな〜♪と、夕飯を作りながら待った。
吾作がいつものように日が落ちてから目が覚めると、すでに夕飯を済ませたおサエが、お茶をすすりながら囲炉裏の前で座って待っていた。
「おはよ♪」
と、吾作が言うと、
「今日もイマイチかん?」
と、おサエは聞いてみた。吾作は、
「うん〜。ほだねえ〜・・・。悪くはないんだけど・・・」
と、微妙な答えをしたが、おサエはそんな事お構いなしに、
「あんな?今日、和尚さんトコ行ってきただわあ。ほしたらねえ。和尚さん、『ほんなら人の寝れる木箱作ってみるか?』って言ってくれてねえ。ほら、あの、おろろ〜。あの人も大きな木箱から出てきただらあ。ほんだもんで吾作もああいう木箱で寝たらいいんじゃない?絶対いいて!」
と、結構な早口で吾作に話した。吾作は半分くらいしか聞き取れなかったが、木箱の部分は聞き取れたので、
「あ、あの木箱!ほだねえ!おろろ〜みたいな木箱だったら家ん中でも邪魔じゃないねえ。」
と、その考えに心躍らせた。おサエも吾作の反応がよかったので、
「ほだら?ほだら?」
と、目を輝かせた。こうして吾作は和尚さんに木箱を作ってもらう話に賛成した。