吸血鬼 吾作
村人達がおサエも連れて侍のところへ抗議に行こうとしていた頃に、日も完全に落ちたのを合図に吾作が目を覚ました。
吾作は棺桶の中だったが(あ、そうだった。)と、思うと一瞬のうちに煙になり、地上に出てきた。そこは自分の家ではなく、自分の名前の書いてある墓標の前だった。なので何だか複雑な気分になったが、吾作は妙にスッキリしていた。毎日家の布団で寝ていて、別にちゃんと寝れてない訳ではないのに今日はやたらスッキリしとている。
(何でかな?棺桶のあの形がいいのかな?それともわしが化け物だから、お墓の方がぐっすり寝れるのかな?)
と、いろいろ考えたが答えは見つからないので考えるのをやめて、自分の家に向かった。
しかし家の近くまで来てまだ村のみんながいる事に気づいた。しかも妙に騒がしくしている。
(ありゃ、どうしよう。おサエちゃんに会いたかったんだけどなあ。まあ、しょうがないから庄屋さんトコに行くかあ。)
と、吾作は、仕方なく庄屋さんの屋敷に向かった。
屋敷に着くと、庄屋さんが待っており、さっそくセリフの書いてある紙を渡された。それにはこう書いてある。
【おの〜れ、おの〜れ!
よくもわしの大事な身体に傷を、つけてくれたな!
このままただで済むとでも思っておったかあ〜!
貴様の家に毎晩出て、末代まで祟ってやろうぞお〜!
覚悟しておけ〜!】
これを読んで吾作は、
「こんなん覚えられませんわあっっ。」
と、素直に言った。
「嘘だらあ!これぐらい覚えれるだらあ?勘弁してくれやあっっ。」
と、困り顔で庄屋さんは言うが吾作は、
「ええ〜っっ。自信ないですわあ。」
と、かなり困った様子だったが、何とか覚えようとその紙を何回も復唱を始めた。しかし、
「おい、吾作。まあそろそろ行くに。最初は隣村の庄屋のトコだで、みんなでサッと行こまい。」
と、たいして吾作は台詞を覚えていないのに庄屋さんが言った。吾作は(困ったなあ)と思いながらも何やら祈り始めた。庄屋さんは(何をしとるんだ?)と、その様子をしばらく見ていると、屋敷の入り口に無数のネズミがどんどん集まってきた。それをみた庄屋さんはまたまた驚いた。
「こ、このネズミ、どうするだん?」
と、少しビビりながら吾作に聞くと、
「あ、乗ってください。」
と、笑顔で答えた。庄屋さんは、
「ええ?せ、せめてござ敷いていいか?さすがに気持ち悪いわっっ。」
と、言うと、屋敷の中に戻り、二畳分のゴザを持ってきて、きれいに並んでいるネズミの上に敷き、その上に庄屋さんは座った。そして、
「ほんじゃ隣村の庄屋んトコまで行くに!」
と、掛け声をかけた。そうして吾作と庄屋さんは、隣村の庄屋の屋敷めがけて走って行った。