吸血鬼 吾作
オロロックは青く半透明に少し光っていた。
そして話す訳でもなく、その散乱した部屋の奥で斜めになった人の背丈ほどあるアンティーク調のキャビネットのガラス戸の中を指さしていた。吾作はビビりながらも何か訴えている事に気づいて少し近づいた。よく見ると、指をさしている先には何かネックレスの様な物があった。吾作は更に近づきネックレスを見ると、
「これ?」
と、聞いた。するとオロロックは少し微笑んだような表情をした。しかし次の瞬間、溶けるように消えてしまった。吾作はびっくりし、しばらく辺りを探したが、オロロックの影も形もなかった。吾作は、
(幻じゃない・・と、思うけど・・・何だった?)
と、思いながらも、キャビネットのガラス戸を開けてネックレスを取り出した。当然、吾作はネックレスなんて見た事もないので、
(なんだこりゃ?)
と、思ったが、何か大事な物の気がしたのでネックレスを持って部屋を出た。
吾作は船を出て海面に顔を出した。海岸には相変わらずかがり火と見張りの武士が二人いた。吾作はここで上がると見張りにバレて厄介な事になる。そう思った吾作はまた海の中に入り、海底まで行くと方向を確かめ、静かに隣の漁村のある海岸まで移動した。
もう少し明け方になってきていて、漁村の住民は漁の支度をする為にすでに準備を始めていた。吾作はそのまま浜辺に向かうのはヤバいと思い、海岸の端のいつもの海岸との境になっている崖沿いにゆっくり移動した。ゆっくりゆっくり岩肌を掴み、水面から上がって行くと、顔が水から上がったところで口から目から耳から鼻から水が勢いよく流れ出てきた。これは吾作の体の腸や胃や肺に入った水を体が勝手に排出していたものなのだった。吾作はびっくりして、一度海に戻ったが、この水の排出は自分ではどうする事も出来ないと分かり、開き直って水をジャージャー出しながら上がっていった。
その音は吾作の思っていたよりも大きく、漁の準備をしていた村人達はみんな気づき、(なんだ?)と、海の方を見た。すでに空は少し明るくなってきているので、何かが動いているは何となくは見える。村人達は海の方は何もないが・・・と、思いながら目線を海岸端の崖あたりに移してみた。すると、海の中から水をジャージャー出しながら上がってくる得体の知れないものが何となく見えた。
「う、海坊主だ…っっ!」
村人は見つかったらヤバいと思い、身を隠して息を潜めた。
吾作は陸に上がってからも水が止まらず、(わしの体ん中、どんだけ水入っとるだんっっ!)
と、思いながら水が抜けるまで砂浜でじっとしていた。しばらくすると水が出なくなったので、安心した吾作は、
(あ、ネズミの入った袋、崖の上に置きっぱなしだわ!)
と、思い出し、コウモリに変身して飛んで行った。
その様子を一部始終見ていた村人達は、
「う、海坊主が空に飛んで行った~!!」
と、叫び、村は大騒ぎになった。