吸血鬼 吾作
村人たち十数人が吾作の家に着くまで、吾作とおサエは縁側で待っていた。すると村人の一人が、
「吾作!吾作がおるぞ!」
と、叫んだかと思ったら数人が駆け寄ってきた。そして吾作の変貌ぶりを見て後ずさり、
「や、やっぱりおまえは、ば、化け物になっちまったのか!」
「それとも何かに取り憑かれちまったのか?」
と、叫んだ。吾作は、
「そ、そんな恐がらんでくれや〜。わしも困っとるだで〜。」
と、嘆いた。しかし村人は、
「おサエさん。吾作から離れりん!いつ襲われるか分からんに!」
と、吾作の話は耳に入っていない様子だった。それを聞いたおサエも、
「ほんなたわけな事言うな!離れーへんわ!」
と、村人たちに返した。それを聞いた村人たちは、
「こりゃあかん。おサエさんも取り憑かれとるわっ。」
「こりゃ、和尚さんにやっぱり頼むしかあーへんわ。」
と、話した。その言葉を聞いた吾作は、
「え!わ、わしも今からお寺さんに行こうかと思ったところなんだわ!」
と、言った。
村人たちはみな、え?そうなの?と、いう少し困惑した顔を見せ、
「ほ、ほんじゃあ、ええところへ和尚さんをうちらは着いてきてもらったって訳だな!
では和尚さん!よろしくお願いしますで!」
と、村人が言った。すると村人たちの後ろから、はあ、はあ、と、息を切らしながら村のお寺の和尚さんが現れた。
「おまえら、歩くの早いわ〜。そんなに急がんでもええだらあ。」
と、和尚さんは言いながら吾作を見てびっくりした。
「何だその顔!吾作!どうした?何があっただ!」
と、和尚さんは言いながらも若干腰が抜けてその場で尻もちをついてしまった。周りの村人たちは、
「だ、大丈夫ですか?和尚さんなら見なれとるだら?」
と、言ったが、
「こんなん初めて見るわ!たわけ〜!」
と、和尚さんの逆ギレをくらってしまった。
一方、吾作は和尚さんが現れる前からなぜか村人たちの後ろが妙に黄色く光ってちょっと眩しいと、思っていた。しかし和尚さんが姿を現した時、吾作もびっくりした。和尚さんの後ろから黄色から黄金の光が眩く和尚さんを照らしていたのである。正に、『後光がさす』と、言う言葉通りであった。しかし、その後光が吾作には眩しすぎて、何か身体中が焼けるような痛みが走り、吾作は昨日見たお地蔵さんや神社が燃えているように見えた理由を理解したような気がした。吾作は自然と後ろへたじろいだ。
「な、なんで和尚さん、そんな眩しいの?」
吾作は光を手で隠しながら言った。横にいたおサエは、
「何言っとるの?いつもの和尚さんじゃんか。」
と、やたら眩しがっている吾作にそう言った。
しかし吾作は、
「ほんな事ないだらあ。だってあんなに眩しいし、何かチクチク痛いわ〜っっ。」
と、ちょっと逃げたい感じにすらなっていた。
「吾作!何があった?話してみりん!」
と、和尚さんは腰が抜けた状態で言った。吾作は眩しがりながら言った。
「和尚さん!その前にその眩しいの、何とかなんないですかあ?わし、眩しくて…。」
「何の話しとる?わしはなんもしとらんで、早よ話しん!」
と、和尚さんが言うと、
「いや、あいつはそうやってごまかして本当の事を言わんつもりだわ!」
「自分が化け物なのを見破られたくないから言い訳考えとるんだわ!」
と、村人たちが野次を飛ばした。それを聞いて吾作は腹が立った。しかし腹が立ったのはおサエもだった。
「あんたら!ここんとこの吾作の大変だったの、なんも見とらんのにいらん事言うな!あほんだら!」
と、おサエが村人たちに向かって怒った。それを聞いて吾作は嬉しかったのと同時に、ちゃんとみんなに分かってもらわないといけないと思った。なので吾作はちゃんと説明を始めた。
「あんな!海に行ったら船が沈没しとったんだけど、木箱から変なしゃべり方のおっきい男が出てきて、首噛まれて血ぃ吸われたら、こんなんなっちゃったんですー!その男はお日様の日で何でか知らんけど消えちゃったんだけど、わしもウサギの血ぃ吸ったらウサギも日ぃ浴びたら消えちゃって〜…。
わし、どうしたらええのか分かんないんです〜!」
事情を聞いた和尚さんは、
「う〜ん…こんな話は初めて聞いたわ〜…。」と、考え始めた。その時、村人たちが、
「和尚さん!吾作の話は半分ウソだわ!あいつはもう化け物になっちまっとるわ〜!」
「ほだ!吾作はもう死んだんだわ!あれは吾作じゃねえ!早よ退治しまい!」
「ほだほだ〜!退治だ退治〜!」
と、吾作を退治する方向で話が盛り上がり始めた。吾作はそれを聞いて悲しくなってきた。確かに姿形、血も吸う化け物になったかもしれんけど、それに和尚さんが眩しくて何かよく見れんけど、自分は人なんか襲わんし、化け物なんかじゃないわ!そう吾作は思った。しかし村人たちから見たら恐怖の対象なのだ。と、思うと、ホントに悲しくなってきて、なんだか泣けてきた。
「わし、わしはおまえらを一回も襲っとらんだらあ!なんでほんな事言うだん!」
と、言うと吾作は大声でわんわんと泣き始めてしまった。横にいたおサエも、
「あんたたちなんか大っ嫌いだわ〜!この鬼〜!」
と、言うと二人してわんわん泣き始めた。この光景を観て、村人たちはなんだか自分たちの方が鬼なのか?わしらが間違っとるんか?と、困惑するのと同時に、吾作を退治しようという感じにはならなくなってきた。それを見ていた和尚さんは、う〜ん…と、考え、
「なあ、皆の衆。あれは姿形がずいぶんおぞましくなったが、やはり吾作だと、わしは思う。きっと吾作の言っとった男に咬まれて、どえらい病気にかかったんじゃないかとわしは考えとる。退治なんてもっての他だが、ほいでも最初はお祓いと思っとった。しかしこの感じを見るとお祓いより除霊をした方がええ気がするで。これなら双方、納得いかんか?」
それを聞いた吾作は、
「あ、ああ、それ!それ!除霊、お願いします〜っっ!」
と、泣いて懇願した。村人たちも、
「まあ、和尚さんがそう言うならそうするかん。」
と、納得した。