たぶんむかしばなし 吸血鬼 吾作 一の二

吸血鬼 吾作

 吾作とおサエがその顔を見てビクビクしていると、そんな事はお構いなしにその大きな木箱のフタを注意深く開けながら上半身を起こした。そして壁の一面のない小屋を見渡し、目を細めた。

『なるほど…これは厄介な場所に連れてこられたな…夜まで待った方が賢明だろう…』

と、吾作の聞いたことのない言葉で話した。なので当然二人には何を言ったか分からなかった。

 その木箱から出てきた男は上半身しか見えなかったが、立てば背の丈は小屋の天井に届くんじゃないかというくらい大きいのが分かった。そして黒くてボタンがやたらいっぱいダブルでついているコート、首にはやはり黒いスカーフを巻いていた。明らかに西洋人のいでたちなのだが、吾作もおサエも外国人を見た事もなければ、村から出た事がないので、そんな想像自体が浮かばなかった。その男の奇妙なのはここからで、そんなコートを着ているのに痩せているのがすぐ分かった。そして肌は死人のように真っ青で、手の指が、人とは思えないくらい細く長く爪がとがっていた。顔も頬がこけ、髪の毛はなく、耳はなぜかとがっており、目はくぼんでいて、それでいてギョロギョロっと覗き込むような不気味な目だった。そして上前歯二本がまるでねずみのような出っ歯ななのだが、その歯は二本の真ん中に向けてとがっていた。

 その大きな男は吾作とおサエの顔を見た。すると不思議なことに二人にはその男の声が聞こえた。

 『ここまで連れてきてくれてありがとう。おかげで助かった。』

 口は開いていないのに声が聴こえた二人はびっくりしてその場で腰が抜けてしまった。

その二人を見た大きな男は、

(低脳だな…)

と、思った。なのでそこから二人をなめてかかった。

『驚かしたようですまない。私はオロロック伯爵。トランシルヴァニアから来た。君たちはとても驚いているようだが、我が国の人々はこうやって口を動かさなくても、心を通わすことができるのだ。』

当然、この男の言った事はウソで、この男特有の能力なのだが、吾作とおサエはそんな事は分からないので、信じ込んでしまった。

「ふぇ、ふえ〜〜〜。」

もう驚きすぎて訳が分からなくなっていた吾作はこんな自分でもよく分からない声を出した。そんな吾作を見てオロロック伯爵と名乗るこの男はハハハと少し笑った後、

『すまないすまない。驚いて混乱させてしまったようだ。そして申し訳ないのだが、もう少し手伝いをしてほしいのだ。私は太陽が苦手なので夜までここで寝ていたいのだ。その間、この箱の番をして…』

と、話していたオロロック伯爵の様子がおかしくなった。

(しまった…体力がないのに昼間に動いたから体調が悪くなってしまった…。こうなれば…)

少し悶えたような姿を見せたオロロック伯爵だったが体勢を立て直すと、

 『そこの男性、私の近くに来なさい。』

と、吾作に言った。すると吾作はそんなつもりはないのに体が勝手にオロロック伯爵のところへ向かおうとした。しかし、さっき腰が抜けたばかりだったので上手く動けなかった。

するとそれを見ていたオロロック伯爵は、

『あ、そうか。』

と、少し笑いながら木箱からその大きな体を出し、吾作の目の前に来た。吾作は何が起こるのか分からなかったが、とても恐かった。横にいたおサエもまた腰を抜かしたままで動けなく、そして目の前のオロロック伯爵がとても恐かった。

 吾作の目の前に来たオロロック伯爵は、吾作の両肩をがっしりとつかんだ。これには吾作はたいそうびっくりしたのだが、オロロック伯爵の手がとても冷たいのにも驚いた。それになぜか体が動かない。さらになぜだか分からないが、吾作は自分の意思と関係なく首を右に傾けた。

(わし、何で首をかしげとるんだ~?それになんで動けへんの~?)

と、思っていると、おもむろにオロロック伯爵が開いた左の首筋に口を当て、

ねずみのような出っ歯で吾作を咬んだ。吾作は何が起こったか最初分からなかったが、首筋の痛みが半端なかったのと、おサエが悲鳴をあげたので咬まれていることはすぐに認識した。それにオロロック伯爵が自分の血を吸っている感覚も分かった。吾作は痛みがだんだんなくなっていくのと同時に少し気持ちがよくなり、意識が遠のくのを感じた。

 オロロック伯爵が血を吸い終わり、吾作を手から離した。吾作はその場で足から崩れ落ち、そのまま頭からうつぶせに倒れた。おサエは目から大粒の涙を出し、ふるふると震えながら吾作をただ見ていた。オロロック伯爵はその場で倒れている吾作を見て、

(う~む・・・血が足りなくなったからこの男の血をいただいたが、少し吸い過ぎてしまったようだ・・・。これでは召使にはならず、私と同じ、ヴァンパイアになってしまうな・・・。仕方がないから夜になったら殺すか・・・。)

と、思った。そして倒れている吾作の横で固まっているおサエをギョロっと見つめると、

(しかし、この娘を放っておく訳にも行くまい。仕方がないがこの娘の血を吸って、召使にするとしよう。)

と、思うと、さっそくおサエの両肩をつかんだ。オロロック伯爵の冷たい手でがっしりと両肩を掴まれたおサエはあまりの恐さに蛇ににまられた蛙のように全く体が動かず、頭が真っ白になった。そして吾作が咬まれた時と同じように自分の意識とは関係なく首を右に傾けた。そこにオロロック伯爵が顔を近づけてきた。

 その時、

「わ、わしの嫁っ子になにするだあ~~~~~!」

と、うつぶせに倒れていた吾作が渾身の力を使って、オロロック伯爵を突き飛ばした。完全に油断していたオロロック伯爵は吾作の突き飛ばしをモロにくらい、小屋の外まで飛んで行ってしまった。すると、

『な~~~~~~~~っっ!!』

と、叫ぶなりみるみるうちに全身から炎が舞い上がり、体中から赤やら黄色やら青色やら緑色やらといろんな炎を出し続け、あっという間にすべて燃えてしまった。後には着ていたコートの灰だけが少しだけ残った。

 呆然と吾作はそのようすを見ていたが、その場でまた崩れ落ち、今度こそ気をうしなった。

吸血鬼 吾作 二の一へつづく♪

なんかシリアスになっちゃった(笑)♪

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