吸血鬼 吾作
しばらく歩いてようやくお寺の前まで来たが、吾作はすでにお寺が眩しすぎて、身体中が針に刺されているようで痛かった。和尚さんに、
「体中が痛いです!ちょっと入るのはやばいかも〜!」
と、吾作は言ったが、
「何言っとるだん。入れない訳ないだらあ。ほれ、中、入りん。」
と、和尚さんは言うだけで吾作の言葉を信じてもらえなかった。村人たちも、
「ほだ。早よ入れ。たいげ(面倒の意)だわ。」
と、ののしった。吾作以外の人にはいつもの普通のお寺の入り口なので、吾作の辛さは誰にも伝わらなかった。おサエも、
「そんなに入れんの?ちょっとくらいあかんかん?」
と、言うので、
「ほんな事言ったって〜っっ。」
と、泣きそうになっていた。それでも中に入らないとらちがあかないので、吾作は身体中の痛みを堪え、深呼吸をして自分を落ち着かせると、
「…よし!は入ってやる!」
と、意気込み、
「そりゃ!」
と、入り口に飛び込んだ。
すると、飛び込んだ吾作の体から瞬く間に煙が上がってきて、手や顔が焼け始めた。
「あ〜!熱い〜!熱い〜!」
と、吾作は叫び始め、その場にもんどりを打って倒れ、なお、その場でごろごろと暴れ始めた。これはただ事ではない!と、思ったおサエは慌てて吾作に覆いかぶさると、吾作を抱きかかえたままごろごろと二人揃ってお寺の入り口の外へ出た。しかしそれでもまだ煙を出しながら吾作は苦しむので、おサエは身体中をパタパタと叩いたり、砂をかけたり、さらにお寺から離れたりした。その異様な状況を見て、
「吾作!わしが悪かった!大丈夫か?」
と、心配になった和尚さんも駆けつけた。しかし、和尚さんが近づくと、
「あ、熱い!和尚さん熱い!」
と、吾作はとても暑がったので、和尚さんも慌てて少し下がった。
村人たちもこの状況には驚いて、
「吾作?大丈夫か?わしらが悪かった!だから死ぬな!」
と、吾作を励ましたり、服を使って仰いだりした。しかし吾作は弱ったまま、動かなくなり、
「うう〜…」
と、苦しむのだった。おサエは吾作に抱きつきながら、
「どうしたらええ?教えて?なにしたらええ?」
と、吾作に問いかけた。しかし吾作は、
「わ、分かんねー…。でもしばらくこのままで…」
と、いい、苦しみ続けるのだった。すると何かひらめいたような顔をしたおサエが、
「私の血を飲めば治ーへん?」
と、言い出した。吾作は少し目がギョロ!っと動いたが、
「あかん。それはあかん。やったらあかん。」
と、拒否をした。それを聞いた村人が、
「なんであかんだん?おサエさんのがダメなんなら、わしのならええだらあ。」
「おお!ええでええで!みんなで吾作にちょっとづつ血をあげよまい♪」
と、みんな腕まくりなど始めた。それを見た吾作はまた目がギョロっとなり、
「やめ!やめてくれ〜!血はあかんのだわ〜!」
と、拒否をするが、
「ええよ。ちょこっとづつだったら問題ないで〜。」
と、村人たちは聞く耳を持たない。おサエも、
「何がだめなんだん?血ぃ飲んだら元気出るだらあ。」
と、血を上げる気満々になっていた。この状況を見た吾作は、動くのもやっとの体を奮い立たせ、
「ち、血を飲んだら、わしは終わるんじゃー!」
と、大声で叫ぶと、覆いかぶさっているおサエを払い退け、すごい勢いで中高く舞い上がりながらコウモリに変身し、煙を出したまま自分の家の方へ飛んで行ってしまった。
これを見た全員が、口をあんぐり開けてただただコウモリになって去って行った吾作の方向を見ていた。村人の一人が、
「もう充分、終わってると思う…」
と、つぶやくと、
「確かに…」
と、他の村人も言ったが、
「そんな事言わんで…」
と、立ち尽くしたまま、ポロポロ涙を流しているおサエがつぶやくと、村人たちは黙ってしまった。