
吸血鬼 吾作
そんな訳で吾作は、庄屋さんの屋敷へやってきた。屋敷の玄関に着くなり庄屋さんはすぐに顔を出して、
「おお!吾作!よう来たなあ。ほんじゃ奥の六畳でちょっと話聞くに待っとりん。」
と、部屋へ通された。吾作は庄屋さんが以前より少しだけ雰囲気が柔らかくなってる気がした。吾作が六畳の居間で待っていると、
「よう来たなあ。まあのんびりしりん。」
と、お茶を持って庄屋さんが現れた。庄屋さんは、すでに引退を決めているそうで、この仕事の跡継ぎを投票か何かで決めようとしているとの事だった。そんな世間話をした後、本題の木箱の話になった。それを聞いた庄屋さんは、
「ふ〜む、なるほどなあ。つくづく吾作、おまえっつーのは面白い化け物になっただなあ。う〜ん、ほだなあ。ほいじゃ和尚には悪いがもう一つ、土の入れておまえが入って、ちょうどいい大きさの木箱を作るかん。お金の心配はせんでええで。それに和尚にもわしから話してやるで。どうせ、おまえ、和尚と話す機会もないだろうし。」
と、さっさと話が決まった。吾作は、
「あ、ありがとうございます!」
と、大きくお礼をした。そして吾作はネズミ退治に出かけた。
あくる日の朝も吾作が家に帰ると、木箱にはおサエがしっかり寝ていた。そして日が登ると、おサエと目を覚まし、軽く白湯を飲みながら吾作は昨日の庄屋さんの考えを話した。
「まあ、ほらほだわねえ。」
と、おサエは言った。そして、
「ほんじゃあこの木箱どうする?私、使っていい?」
と、木箱をもらう気満々になっていた。吾作はどうなるか分からない。と、説明すると、おサエは若干がっかりしたが、とりあえず理解を示した。そして吾作は木箱で眠りについた。
昼になると畑仕事をしているおサエの元に庄屋さんと和尚さんが現れて、吾作の寸法を測りたい。と、言ってきた。おサエは、
「ほや、いいですよ。」
と、言うと、村の大工さんが目の前に現れて、吾作の家まで行く事になった。
家に着いたおサエ、庄屋さん、和尚さん、大工さんだったが、なぜか家には吾作と仲のよい村人達も何人か来ていた。おサエが、
「みんな、どしたん?」
と、聞くと、木箱の話を聞いて見に来たという。おサエは、
(すぐに話がみんなに知れ渡る。)
と、内心困ったような笑えるような気分になった。
そして和尚さん以外のおサエ、庄屋さん、大工さんが家に上がるなり吾作の寝ている木箱を覗き込んだ。吾作はやはり目をバッチリ開けて寝ていたので、それを見た全員が少したちろぎ、庄屋さんが、
「この寝方、何とかならんか?」
と、言うと、少し笑いが起こった。それでも吾作はサッパリ起きないので、そのまま寸法を大工さんは測り、これなら大きさはあまり変わらなく出来ますよ。と、おサエに伝えた。そして吾作の寝ている空間の上以外を板で二重にして、その間に土を入れる案を教えてくれた。おサエは、
「はあ〜。ほんなん出来るんですか〜。」
と、感心しきりになったが、ふと、
「ほういや今使っとる木箱はどうします?」
と、庄屋さんと和尚さんに聞くと、
「ほりゃ邪魔だろうで、新しい木箱ができたらそれと交換だわなあ。」
と、教えてくれた。それを家の縁側で聞いていた村人が、
「何だん。ほいじゃわしら中に入れんのかん。」
と、少しガッカリした。それを聞いた和尚さんは、
「何の話だん?」
と、聞いてきたのでおサエが、
「あ、私がね、吾作のおらん日に中で寝たら気持ちよかったもんで、おばあちゃんとかに教えたら、また気持ちいいって一晩寝て、その話をみんな聞いて今来たって事だと思うんですけど。」
と、言った。それを土間で聞いた和尚さんが、血相を変えておサエを見て、
「おまえ!たわけかん!これで寝たのかん!これは西洋式の棺桶だで!こんなんで寝たらあかんわ!縁起でもないわ!」
と、すごい剣幕で怒ってきた。おサエはびっくりして、
「え、えええええ!ほ、ほんとにっっ!ほりゃあかんわっっ!」
と、オロオロし始めた。和尚さんは、
「ほんな事すると、おばあちゃんやおまえの寿命も縮むかも知れんに!ほんなん絶対あかんに!」
と、ダメ押しをした。それを聞いたおサエはますます不安になり、
「わ、私、おばあちゃんトコ行ってきてもいいですかん?何か、どえらい怖くなってきたっっ。」
と、言うと走っておばあちゃんのいる畑に向かって走っていった。それを見送った村人達だったが、
「ほりゃわしらも危なかったな。」
「ほだな。」
と、言い、それぞれ帰っていった。この時、村人の一人が和尚さんに、
「今の話、ほんとですか?寿命縮むって?」
と、聞くと、
「ああ言っとけば、まあ入らんだら。」
と、こぼした。
いっぽう、慌てておばあちゃんの畑に向かったおサエは、
「おばあちゃん!大丈夫かん?」
と、真剣な声で聞いた。おばあちゃんは、
「はあ?何の話〜?」
と、おサエの顔をまじまじと見つめた。おサエもおばあちゃんの顔をまじまじと見つめ、
「あ〜っっ!よかった〜!何もなくて〜っっ。」
と、その場にへたり込んだ。おばあちゃんは何の事だか分からなかったが、おサエに木箱の話を聞くと、
「まあ〜ほりゃどえらい恐いわあ〜!まあ二度とあれの中では寝ん!」
と、ビビりまくった。
数日後、吾作の元に新しい木箱がやってきた。吾作はその木箱にすぐに横になると、
「あ、これな気がする!」
と、気に入り、それまで使っていた木箱は、大工さんが何かの道具入れぐらいにはなるだろう。と、言いながら持って帰っていった。こうして吾作はようやく満足のいく安眠がとれるようになり、ますますネズミ退治にせいを出した。おサエも畑仕事にせいを出し、二人は村の人達と仲良くやっていった。
そうして時がながれた。