吸血鬼 吾作 十の二

吸血鬼 吾作

おサエは、夜中起きてから全く寝ていなかったが、家の掃除をして、通夜に備え始めた。

和尚さんには、とりあえず一回帰ってもらって、少し休んでから、一度家に来てもらい、通夜の段取り(の芝居)を、村のみんなの前でしてもらう事にした。

庄屋さんは、朝になったら使用人に、村中に吾作が死んだ事を使用人に言って回るよう頼んだ。

吾作はというと、朝になったらいつものように布団に入って寝た。そうすれば、勝手に死んだようになるからである。

そして日も登ってしばらくすると、使用人から話を聞いた村人達が、続々と吾作の家にやってきた。

「吾作が亡くなるなんて全く思わんかったで、あんたも辛いだらあ。」

「あの吾作がホントに死んじゃうなんて思わへんかった。」

など、村人達はおサエに同情をした。しかしおサエはその同情の言葉をもらう度に、

(あ〜・・・何かみんなに申し訳ないわあ〜・・・)

と、思いつつ、

「みんなありがとね。」

と、礼を言うしか出来なかった。すると近くに住むおばあちゃんなどが、

「あんた、吾作が死んじゃったんだから、泣いていいんだよ。無理せんでもええで。全部、私らがやったるで。」

と、気を使ってくれた。おサエにはその心遣いも痛かったが、家の事をやってもらうとバレるかも知れないので、

「大丈夫。いろいろ動いてる方が今はいいで。」

と、おサエはそれっぽい理由をつけて断った。すると、

「そんな気丈に振る舞ってっっ!」

と、更に村人達の同情を買うのだった。おサエは、村人達にホントの事をバラした時に、みんな許してくれるだろうか?と、心配になってきた。そんな事をしてる最中にも、村の人達がどんどん来てくれた。ネズミを退治したり、田植えの件があったというのもあるとは思うが、こんなに村中の人が来てくれると思ってなかったおサエは、

(これはホントの事を話す時は、一軒一軒土下座だなっっ。)

と、内心ヒヤヒヤしながらその場を取りつくろっていた。

すると庄屋さんも慌てながら駆けつけた。庄屋さんは吾作の家に着くなり吾作の所まで行き、

「吾作!吾作〜!」

と、叫び始めた。これにはおサエはじめその場にいた全員がびっくりして庄屋さんをみんな見た。庄屋さんはそんな事はお構いなしで、

「わしが、わしがいらん事頼まんかったら、こんな事にはならんかったのにっ!すまん!本当にすまんかった〜!」

と、大声で横になっている吾作に謝った。そしてすぐにおサエの元にやってきて土下座をした。

「本当にすまんかった!こんな事になるなんて、本当に思わなかったんだわ!わしは、謝っても謝りきれんぐらい悪い事をしてしまった!本当にすまんかった〜!」

と、やはり大声でおサエに言った。おサエは、

「そ、そんな、庄屋さんが悪かった訳ではないのでしょう?こんな事はおやめくださいっ。みんなが見てますしっ。お気持ちだけで、充分です。」

と、庄屋さんに言った。すると庄屋はおサエに小さな声で、

「こんなんでええだらあ♪後で話があるで、夜になったらまた来るわ。」

と、ささやくと、

「吾作〜っっ。」

と、また泣きながら叫んだ。そして立ち上がると、その場にいた村人達に向かって、また土下座をした。

「すまん!わしが、ワシがいらん事を頼んだがためにこんな事になってしまった!みんながはらわた煮えくり返っとるのは分かっとるが、わしが代表で、葬式の次の日、隣村の庄屋のところへ抗議しに行く!もし、もし良かったらみんなもついて来てくれんか!みんなの意思をあいつらに見せたいんだわ!」

と、大声で言った。すると、

「わしは行くに。」

「わしも行く!」

と、その場にいた村人達が声をあげた。それを見た庄屋さんは、

「ありがとう!ほしたら葬式の次の日の朝、わしの家に来てくれ!待っとるに!」

と、村人達に集合場所を伝えると、庄屋さんは帰って行った。それを見たおサエは、

(うわ〜、何かすごい芝居だったわ〜)

と、呆気に取られて庄屋さんを見送った。そんな訳で本来なら通夜は夜にやるものなのだが、この日は突然の吾作の訃報という事もあって、ほとんどの村人が日中に訪れ終わり、日が暮れる頃にはたいして誰も来なくなっていた。そうしてその日の通夜は終わった。

吸血鬼 吾作 十の三 へつづく

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