吸血鬼 吾作
吾作はコウモリになり、家の方へ行く最中、ネズミを一匹たやすく捕まえて血を吸った。そして完全に吸い切ると、
「ごめんなさい。」
と、言いながら、首をもいだ。首をもげば生き返らないと思ったからだった。そして家に到着するとネズミの死骸を家先に置いて、人間の姿に戻った。血を吸ったおかげか、すっかり全身の火傷のような傷は治っていた。そして吾作は玄関前で座って膝を抱えて考えた。
わしはやっぱり化け物だわ。わしがおったらみんなに迷惑がかかるし、おサエちゃんには苦労ばかりかけてしまう気がする。わしはやっぱり退治されるのが一番ええのかもしれん。でもおサエちゃんと離れるのはやだな…。でも迷惑かけるしな…天国におるお父ちゃんとお母ちゃんに怒られるよな。でもこのままじゃおサエちゃんに悪いし、わしよりええ男なんかいくらでもおるわ…そういえばこの家におサエちゃんがお嫁に来た時もおサエちゃん、普段からしょっちゅう来てたから緊張もせんと白無垢着とったくせにお母ちゃんと料理作って真っ暗にしちゃって、式の時にはみんなに笑われたなあ…それにみんなで海に遊びに行ったり、楽しかったなあ…
などと考えを巡らせていたらなんだか泣けてきてしまい、吾作は抱えた膝に顔を埋めた。
しばらくして、村人たちとおサエと和尚さんが吾作の家にぞろぞろ戻ってきた。村人たちは、
「あ、ほんとに吾作おる!」
「コウモリから人に戻っとる!」
「傷も治っとる!」
と、みんな驚いていた。おサエは吾作から話を聞いていたので分かってはいたのだが、実際に目の前にいる吾作を見ると、やはり現実に思えなくて驚いていた。しかし顔には出さないように頑張っていた。村人たちは、
「おサエさんが吾作は絶対ここに戻るっつっとっただよ。よかったわ。ホントにおってくれて。」
と、吾作に言うと、おサエが、
「もう体、大丈夫?」
と、聞いた。吾作は伏せていた顔をあげたが、すぐに顔を膝に乗せ、目は地面の方を指していた。おサエと村人たちはその目の方向を見ると、そこには首のもげたネズミの死骸が頭と胴体をきれいに並べて置いてあった。それを見て村人たちはびっくりした。おサエは昨日のウサギの事があったので、それほど驚かなかった。
「わしがこの子の血を全部飲んだ。」
と、小さい声で言った。村人たちは固唾を飲んで聞き、その場から動かなくなっていたが、おサエは吾作の近くまで歩いていった。すると吾作が、
「おサエちゃん。わし、まだ血が足らんもんで噛みつくかも知れんでこれ以上来たらあかん。」
と、おサエの足を止めた。おサエは涙が浮かべて、
「なんで?となりに座ったらあかんの?」
と、吾作に聞いた。すると吾作は静かな声で、
「わしもはっきり言えんのだけど、人間の血を吸ったら、わしじゃなくなる気がするんだわ。なんかこう〜…上手く言えんけど、人間の血ばっかり欲しくなって、本当の化け物になっちゃう気がすごいするんだわ。だから今は来たらあかんのだわ。」
と、おサエをさとした。しかし吾作は感情が高ぶってしまい、わなわな震え出した。そして、
「わしだって、わしだって、おサエちゃんと一緒にずっとおりたいわ!でも、こんなんじゃあ、おサエちゃんをそのうち殺してしまうかも知れんのだわ!でも、でも本当は一緒におりたいよ〜っっ!」
と、叫ぶと、吾作はわんわん泣き始めた。するとおサエも、
「私だって、まだ一緒におりたいに決まっとるだらあ!あほんだら~!」
と、叫び、わんわん泣き始めた。村人たちはこのようすを見て、本当に二人が気の毒になってきた。そんな時、一人の村人が、
「な、なあ吾作。こんな時になんだけど、そのネズミ、どうやって捕まえただん?」
と、素朴な疑問を吾作に投げかけた。大泣きをしている吾作は、
「へ?なんか簡単にネズミ捕れたよ。何かよう分からんけど・・・」
と、泣きながら言った。するとその村人が、
「ネズミ・・今すぐ捕れるだかん?その辺探したりとかすれば・・・?」
と、聞くと、
「出来るよ。やろか?」
と、吾作はちょっと泣き止んで言ったかと思ったら、村人が返事をする前に、まるで瞬間移動でもしたかのような速さでネズミを捕まえてきて目の前で吸って見せた。そのあまりの速さにそこにいた全員がとても驚いて、言葉を失った。吾作は血を吸い終わると、
「ほら。」
と、カラカラに干からびたネズミを見せた。
あっけに取られていた村人たちだったが、
「いや、おまえ、ネズミどう捕った?」
「おまえ?今?どうやった?行った?」
「どっかに隠し持っとったん?」
と、村人たちはもう頭の中が混乱していたので思いついた事を質問しまくった。すると、
「何言っとるだん?今、捕りに行ったじゃんか。」
と、吾作はなんでそんな質問するんだ?と、不思議そうな顔をして答えた。するとおサエが、
「吾作。今あんた、ホントにネズミ取ってきたの?どえらい早くてみんな見えとらんよっ。」
と、目をまんまるくさせながら言った。吾作は、
「え?そうなの?」
と、目をまんまるくして驚き、自分が早く動いている事を始めて知った。
「あ、ほんだで昨日もあんなにウサギ簡単に捕まえれたんかん。はあ〜…。」
と、昨日の出来事に合点がいって納得していると、
「ご、吾作。わしん家のネズミも捕まえてくれんか?わしの家、最近ネズミがひどいんだわ。」
「あ、うちもやってほしい!まーネズミに年貢の米をこないだかじられて、どえらい大変だったでっ。」
と、村人たちがネズミ退治の話を持ちかけてきた。吾作はそんな展開になるとは思ってなかったので、
「え、ええけど〜…わし、わし、ここにおってええんか?」
と、みんなに聞いた。すると、村人たちは、
「おりん。おりん。おまえじゃないとネズミ退治頼める奴おらんで!」
「むしろ今の吾作は頼もしく見えるわ!」
と、村人たちが言った。すると、少し遠くから、
「みんな、なんだかんだ言って、おまえがおらんと寂しいんだわ。まあ姿形は変わったけど、吾作は吾作だで。安心して暮らしん。」
と、和尚さんの声が聞こえた。
それを聞いた吾作とおサエは、お互い手を取り合って、
「よかった。よかった〜ああ〜!」
と、またわんわん泣き始めた。それを見てみんな爆笑した。
そしてその日の朝方、ネズミの死骸が生き返らないか吾作とおサエと、朝まで残っていた数人の村人が確認のために、家の前にネズミの死骸を置いた。吾作は朝日を浴びれない為に家の中で見守っていた。そして朝日がネズミの死骸にさした。しかし、ネズミの死骸は何にも変化はなく、血を吸って死んだ後、首をもげば化け物になる事はない、と、いう事が分かった。それを見届けると、村人たちは、
「よっしゃ!まあ今日は寝るで!」
「ほいでも今日、庄屋さんとこで田植えだったらあ。どーする?」
「ほんなん今日無理だらあ。みんな寝とらんもんで人なんか来ーへんわ。」
「ほだな。まあ後で庄屋さんには事情話しゃいいわな。」
と、今日の田植えはなし!と、勝手に決めながら帰って行った。吾作とおサエもその言葉を聞いて、
「今日はなしだって。」
と、吾作が言うと、
「私も田植えなんか出れんで寝るわ〜。もう眠くて〜。」
と、おサエは言い、それぞれ布団に入った。
吾作は目を覚ました。日はすでに暮れて、おサエが夕飯を作っていた。
「おはよう。」
と、吾作はおサエに言った。
「おはよう。」
おサエも料理を作る手を止めて、笑顔で答えた。
ここまで読んでいただいて本当にありがとうございました。
今回でとりあえず『吸血鬼 吾作』はいったん終了とさせていただきます。
まだ続きますが、それはもうしばらくおまちくださいませ♪
こんなつたないショボい文章をここまで読んでいただき、
本当に感謝、感謝でございます。
と、いう訳で今回ここまで。
ではまた~♪♪