吸血鬼 吾作
吾作が自分の家に着いた頃には、夜はもうだいぶ更けていた。当然おサエは寝ているので、どうしようかなあ・・・、と、吾作は思った。と、いうのも吾作はまだネズミ達に担がれた状態で、右横腹に矢が刺さったまま。しかしネズミと一緒に家に上がる訳にもいかず、かといって身体を回復する為に隣村から自分を運んでくれたネズミ達の血を飲む気にはさすがになれなかったのである。う〜ん・・と、しばらく吾作は考えると、
「一度みんな元のトコに戻りん!」
と、声を出した。すると、ネズミは瞬く間に隣村目掛けて走って行った。
「・・・ん〜、何か外が騒がしい〜・・・。」
その足音と、吾作の声で、おサエは目を覚ました。外を見ようかと思ったが、この日は月明かりもたいしてなかったので外も見えそうにない。
「まあ・・、いっか〜・・・。」
と、おサエはまた眠りについた。しかし、やっぱり何かゴソゴソ家の外で音がする・・。やっぱり気になってきたおサエは、何だか目が本格的に覚めてきてしまった。ひょっとして吾作が少し早く帰って来たのかも。と、思ったおサエは、そ〜っと部屋のふすまを開けてみた。その音に吾作が気づき、
「あ!おサエちゃん!」
と、声を出した。おサエは、
「え?吾作?まあ帰って来たん?つーか何でも外おるの?暗くてよう見えんだけど。」
と、すっかり完全に目を覚ましたおサエは、灯りをつけようと囲炉裏に火が残ってないか見たが全く火はない。暗いからあまり動けずにいたので吾作が、
「ちょ、ちょっと待っとってっっ!」
と、言うと、吾作は何かを祈り始めた。おサエには何も見えないので、さっぱり吾作が何をしているのか分からなかったが、何か大きい獣が向かってくる足音が、ドドドドドドドドーっっ!と、聞こえてきた。
「え?何々?何しとる吾作?」
と、おサエは言ったが、吾作の返事はない。そしてその足音は目の前で止まり、次は吾作が何かの血を吸っているっぽい音がした。何だか気になってしかたないおサエは、夜目にも少し慣れてきたし、灯りを灯せないか囲炉裏付近をいじり始めた。すると、
「おサエちゃん、危ないに。」
と、言って吾作が囲炉裏に火を付けてくれた。
「あ~。ありがと~。」
と、ノンキにお礼を言ったおサエだったが、吾作の右脇腹にブッスリと刺さっている矢が目に入ると、
「な!ひいいいいいいいいいいいいい~~~~~~~~!」
と、つい大声で叫んでしまった。吾作は、
「あ。もう大丈夫だで。これ取らんと。」
と、言ったが、おサエは、
「だ、大丈夫ってっっ?これが?な、何があっただん?隣村でやられただかん?」
と、深刻な顔で聞いてきたので、吾作は隣村の庄屋さんの屋敷で襲われた事を話すと、
「ちょっ、ほ、ほいじゃウチの庄屋さんはそれ知っとるの?」
と、聞いてきたので、ああ、確かに知らんかも~。と、吾作は話し、おサエと相談した結果、和尚さんのところへ行って相談し、その後、三人で庄屋さんのところへ行って真意のほどを聞いてみよう!と、なった。そして二人で家を出てお寺に向かおうとした時、おサエはビックリして腰を抜かした。そこには吾作に血を吸われて干からびたイノシシの死骸があったからである。吾作は、
「ここで飲んでごめんなさい。」
と、おサエに謝ったが、おサエは、仕方のない事だから。と、吾作をなだめた。しかし何でここにイノシシ?と、少し思ったが、今はそれどころではない。と、思って、おサエは吾作に何も聞かなかった。